どうやら私、蓮くんに愛されているようです
息子を直人に託してまもなく、研吾はこの世を去った。

独りになった薫子は、生きる意味さえも失いかけていた。
研吾が残してくれた生命保険金で路頭に迷うことはない。だが、守る者はもういないのだ。

生ける屍だった薫子は、ふらふらと近所の川のほとりを歩いていた。
太陽が西に沈んでいく。周辺がオレンジ色に染まった。ふと、昔描いていた夢を思い出した。

" 化粧品を扱う仕事がしたい "

このままでは、断腸の思いで手放した愛する息子に合わせる顔がない。
恥ずかしい生き方だけはしたくない。
そんな思いが薫子を突き動かし、 ルクススペイを立ち上げた。

" Lux spei " ラテン語で " 希望の光 "

あの日見た夕焼けだ。


薫子は時々会社近くの川辺へ出かけた。ベンチに座り夕焼けを眺める。

この日もいつものようにベンチに座り、夕焼けを眺めていると、ジャケットのポケットに入れておいたスマホがメールの着信を知らせた。

表示された名前を目にした瞬間目を見開いた。

『元気ですか?』

薫子はオレンジ色に染まった街をスマホに収め、躊躇いながらもメールの送信ボタンをタップした。
そして、追加のメッセージを送る。

《 今日の夕焼けはとってもあたたかい色をしているわ》

離れ離れになり、初めて連絡をくれた、愛する息子、蓮に宛てて。
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