プラトニックな事実婚から始めませんか?
マドンナ
***


「いくつか回ってみたけどさ、祥子はどこか気に入ったところあった?」

 地元、一見市の情報に強いと評判の不動産屋を出て、駐車場に停めた啓介の車に乗り込むと、彼は早速、スマホで撮影した賃貸マンションの写真を眺めながら尋ねてくる。

「啓介は?」
「俺はあったよ。駅にも近いし、新築じゃないけど、予算的にも問題なさそうだなって思ってさ」

 こちらにスマホの画面を向けてくる彼に助手席から身を寄せて、私も画像をのぞき込む。

「それ、私も思った。でも、3LDKだったよね。ちょっと広くないかな?」
「俺、基本的にリモートワークだから、仕事用にひと部屋欲しいんだよ。祥子がいいなら、ここが最有力かな」
「リモートなんだ? じゃあ、毎日家にいてくれるの?」

 将司は仕事人間だったから、ほとんど家にいなかった。連日の飲み会にも付き合いだからと断ることなく出かけていて、夜遅く帰ってくるのはあたりまえだった。

 さみしくはあったけど、私も仕事で疲れていたし、共働きならそんなものなのだろうと、当時は思っていた。

「取材で家を空けたり、講演会に出かける日もあるけどさ、ほとんど家にいるよ」

 啓介はライターの仕事だけでなく、介護関係の講演会もしている。元警察官の人脈が活かされて、定期的に仕事は入ってくるらしい。

 大人しそうな彼からは想像もできないぐらいアグレッシブな一面があって、頼もしくもある。

「仕事から帰ってきたら、誰かがいてくれる生活なんだね。ちょっとほっとするかも」
「そっか。ずっといるんだって、気にならないならよかったよ。……あ、そうだ。これからうちに来るか? 今後の予定っていうか、いろいろ決めておきたいからさ」
「啓介のアパートに行くの?」
「嫌?」
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