心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない

「それから、鞭で打ったり、マリア様が今はどれほど幸せに暮らしているかの話をするなど、肉体的・精神的の攻撃も少々させていただきました」

「…………」


 やけに満足げに話す執事を見て、エドワード王子は絶対に自分達に話したこと以上の何かもしているはずだ──と確信していた。

 しかし、それを隠す理由がマリアを気遣ってのことだとわかるため、王子は口を挟まずに黙ることにした。

 
「そうして己の行った行為を味わうたび、イザベラ婦人の様子はおかしくなっていきました。屈辱的な扱いに耐えきれなかったのでしょう……全く。マリア様は1年もの間、耐えてきたというのに」


 最後は小さな声でボソッと呟くように言った。
 執事の顔には精神不安定になったイザベラへの同情は微塵もなく、まだまだ怒りの感情を残している。

 話を聞いているだけで、マリアの胸はイザベラへの同情でズキズキと痛んでいたが、執事は全く痛んでなどいないらしい。


「そして、あの状態になりました。今のイザベラ婦人は、マリア様のこともグレイ様のことも覚えておりません。どうやら、結婚した後の記憶がなくなってしまったみたいです」

「記憶が……ない?」

「はい。医者にも診てもらいましたが、治る可能性も低いそうです。記憶がなければ、反省させるための罰を与えても意味がありません。そのため、今は他の囚人同様、ただ檻に入れているだけです」

「…………」

< 442 / 765 >

この作品をシェア

pagetop