心を捨てた冷徹伯爵の無自覚な初恋 〜聖女マリアにだけ態度が違いすぎる件〜

85 褐色肌と銀髪の騎士


「マリア様っ! 溢れてますっ!」

「えっ?」


 研究員達のガヤガヤした叫びに、ボーーッとしていたマリアはハッと自分の手元を見た。

 聖女の力──治癒の光のかたまりを集めている大きな瓶の中から、光の粒が溢れている。
 ふわふわと浮いたり落ちたりしているその光の粒を、研究員達が小瓶を持って集めているのが目に入る。


「あっ! ごめんなさいっ」


 マリアは治癒の光を出すのを止めて、自身も小瓶を持って浮いた光の粒を集めた。

 倒れた日から数日後、マリアはまた王宮に来ていた。
 治癒の薬を大量に作ることになったので協力してほしいと、聖女研究室の室長から連絡を受けたのだ。


『親交パーティーのために集まった遠方の貴族の方々から、治癒の薬が欲しいと大量の注文が入ったのです。お忙しいところ申し訳ございません』


 研究室に着いてすぐ、マリアは室長からそう説明を受けた。
 部屋の中にはマリアが見たことのない人もたくさんいたため、今はこれが最重要事項として稼働しているのだということがよくわかる。

 そのため、マリアは光の粒を出していたのだが……ついつい考え事をしてしまい、今に至っている。



 いけない……。
 幸せなことを思い返すのに、ついこの前のお兄様の言葉を反芻してボーーッとしちゃった。



 グレイに「王子にヤキモチを抱いていた」と言われてからというもの、マリアは毎日それを思い出しては胸を高鳴らせていた。
 特に意味のない言葉だとわかっていても、嬉しいものは嬉しいのだ。

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