おいで、Kitty cat




「……っ」


口づけられた掌も、もちろん熱かった。
でも、それよりも感覚を奪われたのは、赤く鬱血した自分の手首を見た時。

永遠くんが、黒目だけで私を見上げている視線とぶつかった時。



「……ね、今さ。俺、ちゃんと仔猫に見えてる? ……だったらいいのに」


その目が熱っぽすぎて、皮膚の表面も内側も、身体の芯まで熱を持って何が何だか分からなくなる。


「頭のなか、全然可愛くない。そんな時ほど可愛くなりたくなるの、都合いいよね」


笑った顔はいつもと変わらず綺麗で格好いいのに、確かに「可愛い」は相応しくないかもしれないと納得してしまった時。


「可愛いくない永遠くんも好きだよ」

「そうかな。さくらに嫌われるんじゃないかって、俺は怖いよ」


それは本心だったけど、ちょっとだけ何かが根本的に違う。
矛盾したものが事実でしかないのを、永遠くんは知ってるんだと思う。
だって、「そんな永遠くんも好き」以上の真実は。


「……なのに、ごめん。いろいろ、グダグダ言うくせに俺、止める気なんてない」


――そんな永遠くんも知りたい。


「永遠くんが好き。……止める気ないのは、私も同じだよ」


止まらなかった。
止める気なんて、これっぽっちもなかった。
流してしまうと怯える永遠くんに申し訳ないくらい、流されるどころか執拗に求めてしまいそうで、私こそ怖い。


「大好き。……ごめんね」

「……っ、なんでさくらが謝るの。普通、こういう場合は俺が」


(だって、私が泣かせちゃいそう)


その続きを無理やり裏づけるみたいに、少し強引に詰め寄られた。
私の意思だっていうのに、別にこういうものは男性だけじゃないのに。
もしかしなくても、これは私が襲ってるに近いのかもしれないのに。
永遠くんがただ上にいるっていうだけで、そんな葛藤に苛まれているのは何だか悪い。


「私、普通じゃないから大丈夫だよ」


永遠くんの優しさで壊れるものがあるなら、きっと、私の機械でできた部分だけだ。


「そんな綺麗な顔で、こんなふわふわでロボットだなんて言われても全然説得力ないんだよ。……さくらは平気でも、俺は怖くて仕方ないのに」

「……ふわ……そ、そんなことない。筋肉はないけど、たぶん金属でできてる……」

「そんなわけないでしょ。照れるとこも照れ方も変すぎるけど、やっと求めてた反応してくれた」


なぜか嬉しそうな永遠くんこそ、変わってる。
どんな顔だか知らないけど、それこそ普通じゃないことは確か。


「俺こそ、ずっと引きこもってて筋肉なんてないけど。もうちょっとくらい、意識してほしいなって思ってたから」

「し、してるよ。最初からずっと」


別に、筋肉質が好みとかそんなんじゃないし。
二人きりでいるのに、意識しないも何もないのですが。


「嘘だ。余裕だったくせに。だから、嬉しい。さくら、今頃やーっと」


――彼氏に押し倒されたって顔、してるよ。








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