おいで、Kitty cat
懐くの、きみだけ。










「ん……」


朝日を感じて、身動ぎをした。
声は掠れてるし、お腹も空いた。
そっか。私、昨日、何も食べずに寝ちゃったんだっけ。
変だな。そんなに疲れてたかな。
いや、確かに疲れてたけど、そんなのいつもと同じ――……。


「……っ」


――じゃなかった。
ガバっと身体を起こして、またびっくりした。
だって、いつの間にベッドに。
いや、私、自力でベッドに行った記憶がない。


『えっちなこととか? 』


無意識に胸元を押さえたけど、別に開けてなんかなかった。


(自意識過剰がすぎる……)


永遠くんはああ言ったけど、本気でどうこうする気はないに決まってる。


(からかったりするようなタイプには見えないけど、気の迷いだよね)


ふと息を吐くと、夢から醒めたか現実に戻った気分になって、何だかモヤモヤした。

ちょっと嬉しかったのかな。
めちゃくちゃだけど、年下の可愛い男の子に告白されて、私には非現実的な出来事にきゅんとしたのかも。
そんな自分に呆れたし、呆れて唇が歪んだ自分も嫌になる。


(……支度しなくちゃ)


お弁当は諦めたけど、朝ごはんはゆっくり食べたい。
シャワーも浴びなきゃ。
しがない会社員は、落ち込む暇すらないんだ。


「……あ。起きた」


寝室から出るか出ないかのところで、ここにいるはずのない声が聞こえてびっくりする。


「……さくら。おはよう」


夢じゃなかった。
さすがにそこまでの幻覚は見ないにしても、もうとっくに帰ってると思ったのに。


『帰りたくなかったから、そのままいた。帰ると、鍵かけられないし』


あんまりギョッとしてしまったのか、慌ててスマホのメモを見せてくれる。


「そ、そう……。そ、その。べ……」


「ベッドに運んでくれた? 」なんて、聞けるわけない。
第一、聞いてどうするの。
自分で横になった覚えがないんだから、答えは分かってるのに。


『ちゃんと我慢してたから、安心して』


言えなかったことも、その先まで読まれてしまった。
またものすごい顔をしてたのか、永遠くんは苦く笑う。


『覚えてる? あなたが望まないことはしないです。したかったら、いつでも言ってくれていいけど』

「……っ、そ、そうだよね!! 永遠くんが、そんな私なんか……」


ふう……と、今度は吐息を通り越して声になってたように聞こえた。


『覚えてないんだ。……好きな人の寝顔見て、ベッドに運んで、何も感じないと思う? 』

「……きっつかったよ」


まだ、目で追った文字を理解できてない。
なのに、声が上から降ってきて。


「僕……俺、は」


どうして言い直したんだろうって頭の中ぐるぐるしてる私に、そこよりもずっと重要なことだと言わんばかりのスピードで文字が打たれた。


『無害ないい人じゃない』

『です』

『今、俺から何もしないのは』

『ただ』


「無理なの分かる。けど、信じて。……さくら」


――あなたのことが、好き。


『理性が誘惑に打ち克ってるんじゃない。嫌われたくないって臆病さが、欲求を遥かに上回ってるだけ』













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