運命の人
 「わ、もうこんな時間だ。すみません。長話してしまって」

 「いえ。すごく楽しかったです。そうだ。もしよければ今度一緒に和菓子作りに行きませんか?」

 流れるような誘いに感心すると同時にやっぱり手慣れているのかも、と少しだけ心がモヤッとした。
 そのモヤつく心のまま勢いで少しだけ踏み込んでみる。

 「如月さんなら和菓子作りに一緒に行くお相手に困らないでしょう?別段私とではなくても」

 「え?」

少しの沈黙の末、答えてくれた。

 「俺は樋口さんと行きたいから誘ったんですよ?でも、もしかして嫌でしたか?」

 「嫌なわけではないです。でも」

 「『でも』?」

 如月さんが続きを催促するように言葉尻を復唱したけど、「あなたのこと信じられないんです」なんて言えるはずもなくて。

 「樋口さん?」

 「あ、すみません」

 黙っていても始まらない。
 こうなったらこれをきっかけだと思って突き進もう。

 「わかりました。和菓子作り、行きましょう」

 その時に見極めたらいい。
 如月さんの言葉が、行動が本物なのか。
 ちゃんと目を見て話せば分かると思うから。
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