【マンガシナリオ】私のイチバンボシ

第二話 推しが家にやってきた

◯宮本家・玄関(夜)

えま「(な、なんで陽斗くんがうちに⁉︎ 本物?本物だよね⁉︎ 私が陽斗くんを見間違えるはずないし……あれ、なんか急に眩暈が……」

えま、フラッと後ろに倒れそうになる。

陽斗「えぇっ⁉︎ ちょっ!」

陽斗、瞬時にえまの方へ走り出す。
スライディングでなんとかえまを抱きとめる。

陽斗「あっぶねぇ……」

えま「んっ……」

うっすらと目は開いているが意識は朦朧としている。

陽斗「大丈夫? 分かる?」

えま、ホッとした顔をする。

宮本「えま! えま! 大丈夫か⁉︎」
と、駆け寄る。

えま、うるさそうに眉を顰める。
美香が玄関に様子を見に来て、

美香「どうしたの? すごい音したけど……やだ、えま⁉︎ 大丈夫⁉︎」

美香、陽斗の腕に抱かれたえまに駆け寄る。
えま、小さく手を挙げて反応する。

陽斗「多分立ち眩んだんだと思います」

えま、心地よさそうな顔で意識を手放す。

美香「陽斗くんありがとうね」

陽斗「でもすいません。靴のまま上がってきちゃって……」

美香「そんなの気にしないで~」

陽斗「ベッドに寝かせた方がいいですよね。俺このまま連れて行きますよ」

陽斗、えまを抱えて立ち上がる。

美香「あ……大丈夫よ。この人に運んでもらうから!」
と、宮本を指差す。

陽斗「じゃあ、お願いします」

陽斗、宮本にえまを渡す。
宮本、えまを愛おしそうに見つめながら、

宮本「大好きな陽斗がいきなり目の前に現れたんだから、驚いて倒れるのも無理ないな」

美香「だから事前に話した方がいいって言ったのに!」

宮本「だってサプライズの方が嬉しいだろ?」

陽斗「(ポカーンと)え……?」

陽斗、宮本と美香を交互に見る。

美香「ん?」

宮本「(顔を逸らして)しまった……!」

陽斗「社長! 娘さん二次元にしか興味ない
んじゃ! 俺のこともユニクラのことも知らないとか言ってましたよね⁉︎」

宮本、焦り出す。

美香「信じられない! まさかあなた陽斗くんのこと騙して連れて来たの⁉︎」

宮本「あ……あれぇ、そんなこと言ったかな……? アハハハ」

宮本、逃げるようにえまの部屋へ向かう。
美香、大きなため息をつく。

美香「陽斗くん、本当にごめんね。大丈夫、あの子にはちゃんと言って聞かせるから」

陽斗「あはは……」

陽斗の表情が引きつる。


○同・えまの部屋(夜)

えま、ベッドで目を覚ます。
棚に飾られた陽斗のグッズが目に入る。
ゆっくり3回瞬きをして、ガバっと起き上がる。

えま「(頭を抱えて)夢だよね、まさかね……ハハハッ」

えま、そーっとドアを開けて左右を確認する。


○同・廊下(夜)

えま、忍び足でリビングの手前まで行き足を止める。

美香の声「陽斗くん本当にごめんね」

陽斗の声「いえ! 俺の方こそ突然押しかけてすみません。しばらくお世話になります」

えま、大きく目を見開いて口を両手で押さえる。
また忍び足で戻って行く。


○同・えまの部屋(夜)

えま、おろおろしながら鏡に映る自分の姿を見る。
顔はほぼすっぴん、髪型はちょんまげハーフアップ、モコモコの部屋着姿が映る。
えま、よたよた後ろに下がる。
勢いよくクローゼットを開け、服を山盛り取り出す。

えま「先に化粧だ!」

えま、ローテーブルで化粧をする。


○同・リビングダイニング(夜)

美香、ダイニングテーブルに座る陽斗に紅茶を出す。

陽斗「ありがとうございます」

美香「ごはんはもう食べた?」

陽斗「はい。食べてきました」

美香「お菓子とかも自由に食べていいからね」

えまの声「ママァーー! ちょっと来てぇぇ!」

廊下の奥からえまの叫び声。

美香「あら、起きたみたい」


○同・えまの部屋(夜)

美香の声「えま? 入るわよ?」

えま、美香の手を引っ張って部屋の中に入れる。

えま「ちょっと! なんでうちに陽斗くんがいるの! どういうこと⁉︎ ママは知ってたの⁉︎」

美香「私も今日知ったのよ。しばらくお家がないからって、パパが連れて来たの」

えま「何がどうなったらそんなことになるわけ⁉︎ それって一緒に住むってこと⁉︎ 陽斗くんと私が⁉︎ この家に⁉︎」

えま、美香に詰め寄る。

美香「そうよ」

えま、胸を押さえて荒く呼吸する。

えま「……ねぇ。誰が私のこと部屋まで運んでくれたの?」

美香「陽斗く……」

えま「あぁー終わった……」
と、頭を抱えて崩れ落ちる。

美香、クスクス笑って、

美香「陽斗くん……じゃないから安心して。本当は陽斗くんが運んでくれようとしたんだけど、えまの部屋見られたくないだろうと思ってパパに運んでもらったから」

えま「なんだ良かったーー! ママナイス~」
と抱きつく。

美香「あ、そうだ。家の中ではキャーキャー言っちゃだめよ? じゃないと陽斗くん、ここでも気を張って休まらないでしょ?」

えま、悟った顔で頷きながら、

えま「そ……そうだよね……私としたことが。危ない危ない。ママ、ありがと!」

えま、美香の手を握る。
美香、よく分からずニコニコ笑う。


○同・リビングダイニング(夜)

陽斗、棚に飾ってある家族写真を見る。
写真には宮本の肩車で喜んでいる小さい頃のえまと、宮本の腕にぶら下がっている幼い頃の兄・宮本類。
隣でにっこり微笑む美香。

陽斗「(仲良さそうだな)」

えまが美香の後ろに隠れながらリビングに入って来る。
私服に着替え、軽く化粧をして、髪も巻いている。
えま、美香の後ろから顔を覗かせる。

えま「……はじめまして。宮本えまです」

陽斗「……あっ、と。しばらくこの家でお世話になります田中陽斗です……よろしくね」

えま、大きく深く頷く。

えま「あの、さっきはお手を煩わせてすみませんでした!」

えま、直角に体を折りたたむ。

陽斗「……俺は全然いいんだけど、もう大丈夫?」

えま「……はい、大丈夫です!」

陽斗「……そっか。良かった」

えま、瞳を潤ませてふやけた顔になる。
美香、えまに向かって、

美香「(口パクで)かーお!」
と、ジェスチャーする。

えま、自分の頬をペチっと叩いて首を振る。
陽斗、不思議そうにえまを見る。
美香、えまを見てクスクス笑う。


○同・陽斗の部屋(夜)

美香、陽斗を連れて家の中を案内。
えま、2人の後ろをついて行く。

美香「ここが陽斗くんの部屋ね。狭くてごめんね~」

美香、部屋のドアを開けて中を見せる。
15畳ほどの広さ。
ベッド、テーブル、デスク、椅子、本棚がモノトーンで統一されているシックな部屋。

陽斗「(苦笑)いえ、十分すぎます。この家具とかって元々あったんですか?」

美香「ここ息子の部屋だったんだけど、もうしばらく使ってないの。本当はもう少し広かったのに、えまが自分の部屋をもっと広くしたいって言って急遽壁の位置を変えたからこっちは狭くなっちゃって」

えま「(小声で)ちょっと! 余計なこと言わないでよ!」

美香、笑いながら、

美香「この子の部屋隣だから、うるさかったりしたら遠慮なく怒っていいからね」

えま、ばつが悪そうにする。


○同・リビングダイニング(夜)

えま、ソファに座ってユニクラウンが出ている音楽番組の録画を見ている。
陽斗がリビングに来たのに気づき慌ててテレビを消す。
陽斗、気まずそうに、

陽斗「俺のファンだって聞いたんだけどさ……こうやって気遣わせるのも悪いし、しゃ……お父さんに俺と一緒に住みたくないって言いなよ。愛娘が嫌がってるとなれば、多分考えも変わると思う」

えま「ごめんなさい……テレビとか、次から気をつけます。すみませんでした!」
と、頭を下げる。

陽斗「……別に怒ってるわけじゃなくて……ごめん、俺人見知りだから、怒ってるように見えるよね」

えま「(人見知り、もちろん知ってます!)」
と、嬉しそうに頷く。

陽斗、怪訝な顔をする。
えま、しまったという顔。

陽斗「……イメージと違うってがっかりされるのも嫌だし。早めにお父さんに言ってくれると助かる」

えま、陽斗に手のひらを向ける。

えま「安心してください。私はアイドルのはる……田中さんの顔と体にしか興味ないので! 今目の前にいる田中さんは、私にとって全国の田中さんと同じです、ただの田中さんです! だから、何も心配せず、自分の家だと思ってくつろいでください!(ドヤ顔)」

陽斗「(小声で)それはそれで複雑なんだけど……さすが社長の娘」

えま「え? 今何か言いましたか?」

陽斗「(首を横に振って)いや……別に」

陽斗、背を向けてリビングを出ようとする。

えま「あっ! 大事なこと言い忘れました!」

陽斗、振り返る。

えま「声も! 田中さんの歌声も大好きです!」

陽斗「……(フッと笑って)そりゃどーも」
と、歩いて行く。

えま、満足そうな顔。

えまM「こうして、私と推しの同居生活が始まった」


○同・キッチン(朝)

美香、朝食の用意をする。
えま、それを手伝う。

美香「えま、陽斗くんに飲み物何がいいか聞いてきて」

えま「えッ……」


○(えまの妄想)同・陽斗の部屋(朝)

ベッドで眠る陽斗。

えま「陽斗くん朝ですよ。起きてー」

えま、陽斗をトントンして起こす。

陽斗「んっ……もう朝?」

陽斗、ゆっくりと目を開ける。

えま「(微笑んで)早く起きないと遅れちゃいますよ?」

陽斗「俺二度寝するから……」
と、目を瞑る。

えま「えぇっ⁉︎ でももうマネさん迎えに来ちゃいますよ!」

陽斗、面倒くさそうな顔をして、

陽斗「……いいから、えまも」
と、毛布の中から手を伸ばし、えまを毛布の中に引き込む。

えま「キャッ!」

えま、抱き枕のように陽斗の腕の中に収まる。
陽斗、心地よさそうに眠っている。
えま、陽斗の腕の中で寝顔にときめく。
(えまの妄想終了)


○同・キッチン(朝)

えま「陽斗くんダメ! 私には刺激が強すぎるよッ!」

えま、ニヤけた頬に手を当てながら体をくねらせる。
美香、えまの顔から手をどける。

美香「変な妄想してないで、早く行って来て! 陽斗くんもう起きてるから!」

えま「はぁい……」


○同・洗面所前~中(朝)

えま、洗面所の前に来ると眼鏡をかけた陽斗が廊下を歩いてくる。
えま、嬉しそうにはっと口元を手で覆う。

陽斗「……(眠そうな掠れた声で)はよ」

えま「……おはようございます!」

陽斗、洗面所の中に入り洗面台の前に立つ。
えま、扉から覗くように立って見守る。

陽斗「……もしかしてここ使う?」

えま「いや使いません! どうぞ!」

陽斗、水を出して顔を洗い始める。

えま「(呟くように)……一生見てられる」

えま、うっとりした顔で陽斗を見つめる。
陽斗、タオルで顔を拭く。
鏡越しにえまと目が合う。

陽斗「……なんかある? 見られてるとやりづらいんだけど……」

えま、我に返る。

えま「ごめんなさい! えっと、ママが朝の飲み物何がいいかって」

陽斗「……みんないつも何飲むの?」

えま「私とママはコーヒーです」

陽斗「じゃあ俺もコーヒーでお願いします」

えま「分かりましたぁ……」

えま、離れたくなさそうにギリギリまで陽斗を見ながら洗面所を後にする。
陽斗、えまの様子に失笑する。


○同・リビングダイニング(朝)

ダイニングテーブルにはサラダやハムエッグが乗った4人分のお皿が並ぶ。

陽斗「おはようございます」

美香「おはよう陽斗くん。よく眠れた?」

陽斗「はいぐっすりでした。これ運びますね」

美香「ありがとう!」

陽斗、キッチンカウンターのコーヒーを運ぶ。

×  ×  ×

宮本、美香、陽斗、えまの4人で朝食を食べる。

宮本「陽斗、今日の予定は?」

陽斗「今日はスタジオ収録の後そのままロケです。(美香の方を見て)あ、なので帰り遅くなります。ごはんも大丈夫です」

えま「私も今日バイトだから遅くなる~。夜もお店でサンドイッチでも食べてくるからいいや!」

陽斗、何か聞きたげな顔でえまを見る。
えま、トーストを食べようとして口を開けている。
陽斗の視線に気づいて固まる。

えま「⁉︎」

陽斗「……ごめん」
と、コーヒーを飲む。

宮本「バイトなんてしなくても、欲しい物はなんでもパパが買ってあげるぞ?」

美香「ダメよそんな甘やかしちゃ!」

えま、陽斗を気にしながら小さくトーストをかじる。


○同・廊下(朝)

えまと陽斗、同時に部屋から出てくる。

陽斗「!」

えま「!」

陽斗、そのまま玄関へ向かう。
えま、耳に入れたワイヤレスイヤホをそっと外して後ろをついていく。


○同・玄関(朝)

えまと陽斗が一緒になる。
美香、カーリーを抱いて見送りに来る。

美香「2人とも気をつけてね~」

えまと陽斗「行ってきます」


○同・エレベーター内(朝)

えまと陽斗、角と角に立つ。
チラッとお互いを見て目が合い、気まずそうに前を向く。

陽斗「バイトさ」
えま「あの……」

えまと陽斗、同時に喋り出して固まる。

陽斗「あ……」

えま「すいません! はる……田中さん先にどうぞ」

陽斗「……いや、バイト何やってるのかなって……」

えま「バイトはカフェです。うちの近くにある『ミラベル』ってとこで。コーヒーとか、あとオリジナルのドリンクとか美味しいんですよ! 今度ぜひ……」

陽斗「……そうなんだ」

えま「はい……」

陽斗「……あ、どうぞ。何か言いかけてたよね」

えま「あ……なんだっけ……」

陽斗、気まずそうに階の数字が下がっていくのをじっと見つめる。
エレベーターが着いて扉が開く。
陽斗、開けるボタンを押してえまに先に降りるよう促す。

えま「ありがとうございます」

えま、エレベーターを降りる。


○同・エントランス(朝)

壁に水が伝っていて、ソファがいくつもある広々とした空間。

陽斗「……じゃあ俺はここで」

えま「はい。お仕事、頑張ってください!」

陽斗「……勉強、頑張ってください」

えま「(笑顔で)ありがとうございます! 行ってきます!」

えま、お辞儀して歩いて行く。
陽斗、えまの背中を見ながら「ふぅ」と息を吐く。


○高校・教室

生徒がそれぞれ机を向かい合わせてお昼を食べている。
えま、桃香の前で嬉しそうにお弁当を食べ進める。

桃香「えま嬉しそうだね。何かいいことあったの?」

えま「……うん。(小声で)実は陽斗くんがしばらくうちに住むことになったの」

桃香「へぇ~陽斗くんがねぇ……」

桃香、頷きながら箸の手が止まる。
立ち上がってえまの肩を掴む。

桃香「は⁉︎ ちょっと! とうとう現実と妄想の区別もつかなくなった⁉︎ ヤバい薬とかやってないよね? 大丈夫?」

えま「ちょっと~。親友をヤク中みたいに言わないでよ」

桃香「だって……はいそうですかなんて言えないでしょ! 陽斗くんって田中の陽斗くんでしょ? えまの推しの!」

えま「そうだよ。田中の陽斗くん。私の推しの。(小声で)なんか住む家がなくなっちゃったらしくて、パパが急に連れて来たの」

桃香「何その『捨て犬拾ってきました』みたいなノリは! 何でそんな冷静でいられるの⁉︎ 推しでしょ! キャーキャーするでしょ普通! えまは今、推しと同棲してるんだよ⁉︎」

えま「シーーーーッ!(小声で)ちょっと! 安易に同棲とか言わないで! 誰に聞かれてるか分かんないんだから! 特に紗耶香に聞かれたら……」

えまと桃香、そーっと小林紗耶香(17)の方を見る。
紗耶香、窓際の席で友達と会話している。

桃香「ごめんごめん。紗耶香もえまと同じ田中担だったね」

えま「(頷きながら)紗耶香は同担拒否だから、もし陽斗くんがうちにいるなんて知られたら……ヤバいもん!」

えま、身震いする。
桃香、頬杖をつきながら、

桃香「でもさぁ。話は戻るけど、私だったらもっと舞い上がっちゃう。あわよくば田中さんといい感じになったり~とか期待しちゃうなぁ」

えま「私が家でキャーキャーしちゃったら、陽斗くんの心が休まらないでしょ? だから、陽斗くんの前では絶対にオタクを出さないようにしようって決めたの!」

桃香、拍手する。

桃香「えま、すごいよ。オタクの鑑だ!」

えま「ま……まーね!」


○同・廊下

えまと桃香、話しながら歩く。

桃香「ていうかさ。そもそもなんでえまのパパが田中さんを連れて来たの? そこはどういう繋がり? えまのパパってなんの社長なんだっけ」

えま「あぁ~なんか人材派遣会社だっけな……よく知らないんだよね」

桃香「(苦笑しながら)知らないって……もう少しパパに興味もってあげてよ」

えま、廊下の奥を見て立ち止まる。
工藤真斗(18)が友達と歩いてくる。
真斗、えまと桃香に気づく。

桃香「(緊迫して)えま、行こ!」

えま「あ、ちょっと……!」

桃香、えまの手を引いて、逆方向へずんずん進む。

桃香「(怒りながら)あーもう最悪! 嫌な人に会っちゃったね! えま大丈夫?」

えま、歩きながらチラッと後ろを振り返る。悲しげな表情の真斗と目が合う。
えま、すぐに目を逸らし、

えま「う、うん……」
と、床を見つめながら答える。


○テレビ局・楽屋

ユニクラウンのメンバー、座ってお菓子を食べながら談笑。

柊也「それで、新居はどうよ?」

陽斗「新居じゃなくて仮住まいな」

翼「住んでたマンション追い出されるって何そのドラマみたいな展開! 陽斗お前もってるのかもってないのか分かんないな」

悠真「社長の娘さんって高校生だよね? どんな子なの?」

陽斗「……それが、ユニクラのファンで……」

メンバー「えぇっ⁉︎」

柊也「それ絶対社長わざと黙ってたって。前に、思春期で娘が冷たいって言ってた!」

悠真「じゃあはるピーは娘さんのご機嫌とるために社長に利用されたってこと?」

翼「ちなみに誰担?」

陽斗「……俺」

翼「お前か―い!」

柊也「そしたら陽斗、家帰っても気持ち的にあんま休まらないんじゃない? 大丈夫?」

悠真「確かに。サインちょうだいとか写真撮ってとか言われた?」

陽斗「そこらへんは心配ないと思う。(えまの真似をして)『私はアイドルの田中さんの顔と体にしか興味ないので!』って、結構ハッキリ言われたから……」

翼「ウケる~! 家にいるただの田中陽斗には興味ないんだ! おもろいな~娘さん。俺も会ってみたいわ」


○(陽斗の想像)宮本家・リビングダイニング

陽斗がユニクラウンのメンバーを連れてくる。

ユニクラウン「初めまして! ユニクラウンです!」

えま、失神して後ろに倒れる。
(陽斗の想像終了)


○同・楽屋

陽斗、光景を想像してクスっと笑う。

悠真「はるピーなに笑ってんの?」
と、からかう。

陽斗「いや、なんでも」

凛太郎「(ニヤニヤしながら)今その子のこと考えてたんじゃな~い?」

翼「マジぃ? お前人見知りなのにもうそんな仲良くなったのかよ!」

陽斗「んなワケ。JKなんて何話せばいいか分かんないし。今日もエレベーターの中気まずすぎて地獄だった」

凛太郎「そんなの簡単だよ~『今日学校で何したの?』とか『休みの日は何してるの?』とか聞けばいいじゃん」

陽斗、目を細めながら凛太郎を見る。

柊也「それができれば苦労しないんだけどな」

悠真「だね」

翼「でも俺らの大事なファンなんだから、嫌われないようにはしろよ~もしファンが1人減ったら陽斗のせいだからな」
と、茶化す。

柊也「翼! あんま陽斗にプレッシャーかけんなって」

凛太郎「そうだよ。ソルトプリンスに失礼なこと言わないの!」

悠真「こら凛も、はるピーのことおもちゃにするなって」

陽斗、不貞腐れながらため息をつく。


○宮本家・リビングダイニング(夜)

陽斗、リビングに入ってくる。
宮本と美香がソファに座ってワインを飲みながら洋画を観ている。

美香「陽斗くんおかえり!」

陽斗「ただいまです」

宮本「おつカレーライス!」

陽斗、失笑して宮本を無視。

宮本「おい! なんか言えよ!」

陽斗「……あれ、えまちゃんまだ帰ってないんですか?」

宮本「えまちゃん……?」
と、陽斗を鋭く睨む。

陽斗「……お嬢さん、まだ帰ってないんですか?」

美香「お店が21時までだから、いつも帰って来るのが22時前くらいなのよ」

陽斗「そうなんですね」

美香「陽斗くん良かったら冷蔵庫の中の桃食べてね」

陽斗「ありがとうございます」


○同・玄関(夜)

えま、ドアを開けて帰って来る。

えま「ただいまー!」

玄関には陽斗の靴が並んでいる。

えま、靴に向かって二拝してしゃがみ込む。
胸の高さで二拍手して目を閉じる。

えま「今日もお疲れ様でした」

えま、目を開けて立ち上がり、一拝する。
美香が玄関に顔を出す。

美香「おかえりえま。お風呂入っちゃってね」

えま「はーい」

えま、部屋の方へ向かう。


○同・リビングダイニング(夜)

えま、ソファでカーリーと戯れる。
スリッパの音が聞こえて陽斗がダイニングに入って来る。

陽斗「あ……おかえり」

陽斗、上半身裸で首からタオルをかけ、スウェットを履いてTシャツを手に持っている。

えま「ただい……ま……です」

えま、陽斗の頭から足の先までをまじまじと見つめる。

えま「ストップ! はい! そこで止まってください!」

陽斗「……え?」

えま、顔を両手で覆うが隙間から陽斗を見つめる。
陽斗、自分の恰好を見る。

陽斗「あ……ごめん! つい癖で……」

陽斗、慌てて持っていたTシャツを頭から被る。
頭を通したところで、スマホで写真を撮ろうとしているえまに気づく。

陽斗「ちょいちょいちょい」

陽斗、えまの方に歩いて行って、えまのスマホのレンズを手で隠す。
えま、我に返って、

えま「すみません! 私としたことが!」

えま、恥ずかしそうにスマホを仕舞う。

陽斗「……そういえば、こういう感じの撮影少し前にしたな……」

えま「(食い気味に)はい! 今月の雑誌ですね! 載ってました! 見ました! 3冊買いました!」

陽斗「え、3冊も?」

えま、指折り数えながら、

えま「だって、閲覧用でしょ。あと飾る用、それから万が一何かあった時のための保存用! いつも3冊は最低ラインです! 本当は買い占めて出版社に重版かけさせてみんなに配りたいくらいです!」

えま、満足そうに言い切る。
陽斗、呆気にとられる。
えま、陽斗を見て青ざめる。

えま「ごめんなさいッ!」

えま、ソファの上で土下座する。

陽斗「え……今なんで謝られてんの俺」

えま「だって……めっちゃオタク出しちゃったから……」

陽斗「……いや、ファンに喜んでもらえて嫌がる奴なんていないでしょ。少なくとも、俺は嬉しいし。そういうの、もっと頑張ろうって思える……」

陽斗、えまに近づいて、

陽斗「……いつもありがと」

陽斗、ぎこちなくえまの頭に優しく手を置いてリビングを出る。
えま、両手を頭に乗せてきょとんとする。
そのままソファに倒れ込んでフリーズする。

えま「桃香。やっぱり私、ダメかも……」

えま、うつ伏せになって足をバタバタさせる。


○同・廊下(夜)

陽斗、廊下の真ん中にしゃがみこむ。
自分の手のひらを見つめながら、「しまった」とう顔。


○(陽斗の想像①)同・リビングダイニング(夜)

えま、ソファに座って涙を流す。

えま「こんなの陽斗くんじゃない……陽斗くんはこんなことしない!」


○(陽斗の想像②)同・えまの部屋(夜)

えま、手を叩きながら大笑いする。

えま「やっば! 頭ポンとか古すぎ~! こんなんで喜ぶと思ってるのかな」
(陽斗の想像終了)


○同・廊下(夜)

陽斗、恥ずかしそうにタオルで髪を拭く。

陽斗「絶対引かれた……らしくないことするからこうなるんだ……」


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