造船王はその愛を諦めきれない~その人は好きになってはいけない相手でした~
昨夜、肉か魚か聞かれて肉と答えたからか、ステーキがメインの料理がいくつか出てきた。

サラダ、ペンネ、バケットも次々と届き、テーブルはお皿でいっぱいになる。あらかじめ予約をして、注文をしておいてくれたらしい。

「ふふ、コース料理じゃないわよ。マナーとか堅苦しいの嫌なのよね。順番にでてくるより、どれ食べよっかなーっていうのが楽しいじゃない」

「それは同意です」

「みーちゃ、はんばあぐなの」

美菜ちゃんが嬉しそうに足をぴょんぴょんと振る。

「こら。お行儀わるいから辞めてちょうだい」

雅さんは豪快な感じはするが、所作は綺麗だ。育ちが違うのだろうなあと感じさせられる。

「昨日は、美菜を助けてくれて本当にありがとう。凛ちゃんは命の恩人よ」

「大したことは出来なかったですが、こんな風に誘ってくださって嬉しいです。美菜ちゃんともまた会えて、美味しいお料理も味わえて、返って申し訳ないくらいです」
雅さんは昨日からなんどもお礼を伝えてくれた。

「凛ちゃんはお仕事行く途中だったんだっけ?」

「はい」

「なんのお仕事してるの?」

「平日は会社で事務員をしているんですけど、土日だけ派遣会社に登録して、家政婦やベビーシッターをしてるんです。土曜日はちょうど、ノースエリアのお宅でお仕事があったので」

「お仕事ふたつ? お休みがないって事? それって凄くハードじゃない」

雅さんはびっくりする。

「ええ、ちょっと家庭的な事情がありまして。弟が二人いて、今大学生と高校生なんですけど、卒業するまでは頑張ろうって決めてるんです。

でも、お手伝いのお仕事は好きでやってるんです。
わたしずっと幼稚園教諭とか、保育士になりたかったんですけど、学校にいけなくて。

なんとか資格だけとってやっと始めたお仕事なんです。何れは、本業は子供のお世話をしたいと思っていて、まだ経験は浅いので、修行中って感じです」

「そう……努力家なのね」

雅さんは微笑んだ。白い肌に真っ赤なルージュがよく似合っていて、妖艶な微笑みに女のわたしでもドキドキとした。

「雅さんは、何かお仕事をされているんですか?」

「わたし? モデルやってるの」

背も高いし綺麗だとは思っていたが、まさかモデルさんだったとは!
失礼な質問をしてしまった。

「すみません! わたし疎くて……」

「いいのいいの。ずっと海外の雑誌ばかりだったもの。知らなくて当然よ」

雅さんはあっけらかんとしている。
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