十回目のお見合いは、麗しの伯爵令息がお相手です。
「母上、なぜ彼女をトルメンタ家へ呼んだのです。まったくの他人ではないですか」
「カミロ。私はあの子を救いたかったの。我が家にはそれが出来るの。私がしたことは、悪いことかしら」

 母に言ってもこのような説教ばかりで、埒が明かない。フィーナに心をかき乱される日々が続いたカミロは、ついに本人へ直接物申すことにした。ウロウロするな、ヘラヘラするな。俺の視界に入って来るな──
 はっきりと、本人に言ってしまおう。目障りだと。
 


 威勢よく訪ねたフィーナの部屋。
 その扉が、うすく開いていたから。ノックもせず勢いよくトビラを開いたカミロは、見てしまった。

 彼女が自室でひとりきり、形見を並べて泣く姿を。

 フィーナを囲んで、それは丸く並べられていた。花モチーフのブローチ、クマのぬいぐるみ、父の帽子、母の指輪……六歳のフィーナが、形見に囲まれて泣いていた。ただ静かに泣いていた。

 頭を殴られたような衝撃を受けた。
 屋敷をウロウロと歩き回っていたのも、チェリと楽しげに笑っていたのも……きっと我が家に馴染もうとしての事だった。親が死んだばかりで、こんな他人の屋敷へ一人きりでやって来て。陰では、こうして泣いていた。当たり前だ。泣いていて当たり前なのだ。

 フィーナの表面しか見ていなかった自分を心底恥じたカミロは、涙を流すフィーナにハンカチを差し出した。
 彼女はカミロのハンカチを遠慮がちに受け取ると、やはりヘラヘラと笑った。
「カミロ様は、お優しいのですね」と、蜂蜜色の瞳を潤ませて。
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