十回目のお見合いは、麗しの伯爵令息がお相手です。

(おまけ)花畑の舞台裏

 フィーナと、花畑へ行く約束をした。
 十二年間トルメンタ伯爵家で一緒に暮らしていて、彼女と二人きりで出かけるなど実は初めてのことだった。

 (それにしてもフィーナが、花畑に行くほど花を好きだったとは)

 彼女と向かうことになったのは、セラピア湖畔に広がる花畑であった。街から程よい距離にある美しい花畑は有名で、噂に聞けば様々な花が咲き誇るという。

 思わず、花畑の中に立つフィーナを想像した。
 色とりどりの花に囲まれ、彼女が立つ。さらさらと、栗色の髪をなびかせて。

 (……なかなか絵になるな)

 カミロは腕を組み、己の妄想に軽く頷いた。

 その場所が前の縁談相手と行きたかった場所である、ということだけが、何となく引っかかる。九回目の縁談を断られたりさえしなければ、フィーナはあの新人騎士の男と花畑へ訪れていたはずだったのだ。

 (奴とは、どう過ごすつもりで……)
 
 フィーナはあの男と、花畑へ行くことを楽しみにしていた。一緒に花畑へ行くくらいなのだから、もしかすると花が好きな男であったのだろうか。二人で、花について語らう時間を過ごそうと……?

 (まずい、俺は花に関して一切知らない)

 再び想像する。フィーナが花について語りかける。しかしそれについて、カミロは何も応えられない。また語りかけられる。応えられない。それを何度も繰り返す……彼女の表情は曇ってゆく……

 (最悪だ)

 地獄のような妄想をしてしまったカミロは、図書室へ急ぐと花の図鑑を数冊選び、夜通し花について頭に叩き込んだ。幸いなことに暗記は得意だ。数日かけてカミロは花の名前を覚え、特徴を理解し、完璧な花の知識を身につけたのだった。
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