嘘はやがて、花を咲かせる。

挨拶週間








生徒会の行事の1つ。

挨拶週間の立哨。





7時半から8時20分まで、校門のところに立って挨拶をする。









本当なら。


生徒会の、9人全員でね。











「おはようございます」


私1人、校門に立って挨拶をしていた。







登校してきた生徒会メンバーが何人か通過したが、笑いながら校舎に入って行く。





要は、無視だ。







「えぇ渡里ちゃん、おはよう!!! 立哨も1人!?」

「先輩…おはようございます。相変わらずです」

「ちょっと、私らもやろうや!」

「良いね!」






情報研究部の先輩。
星乃部長と、澤村副部長。




2人は鞄を置いて、私の両端に立った。





「え、先輩…生徒会じゃないのに申し訳ないです」

「良いの!! 可愛い後輩が1人で挨拶している方が耐えられない!」




2人の優しさに胸が痛む。




生徒会のメンバー。
この人たちはこの光景を見ても何も思わないのだろうか。





「たまには挨拶するのも良いね」

「生徒会メンバーがスルーして校舎に入って行くのは気に入らんけど」





3人で挨拶を続けていると、香織も登校して来た。




「え、挨拶しているのですか? 何で!?」

「渡里ちゃんが1人で挨拶しているのを見たらさ、私たちも挨拶をしたい気分になったからさぁ! 渡里ちゃんに便乗したの! ほら、白石ちゃんも挨拶するよ!」






挨拶したい気分。

そんな気分、一生やってこないことくらい分かる。






全て、私の為…。







香織は状況を察して大きく頷き、先輩の隣に立った。






「なるほど、分かりました!!! そう言えば、私も挨拶したかったかも!!」








生徒会というか、情報研究部による立哨。



後から登校してきた1年生も合流し、最終的に6人になっていた、






「先輩を始め、皆さん…本当にありがとうございます。心強いです」

「何言ってんの! 挨拶したい気分だったって言っているでしょ?」




みんなが頷きながら微笑んでいる。







何て温かい部活なのだろう。






本当、生徒会とは大違い。














そろそろ8時20分になろうかという頃。


校舎の方から1人の先生が近付いて来た。







「あ、長谷田先生」

「先生、今更来てどうすんの?」






ゆっくりと歩いて校門に近付いてくる。



先生は少し俯いていた。




「……生徒会の立哨、元気があって良いねって褒められたんだ。それで来てみたんだけど…生徒会というか……」

「我々、情報研究部です」

「…だよな」





星乃部長は私の腕を引いて、長谷田先生の前に移動する。




その両端に澤村副部長と香織、1年生も立った。






「渡里ちゃん1人で立哨してたよ。先生、おかしいと思わないの? 生徒会って名ばかりで、全く機能していないじゃん!!」


「……いや、違う。あれだろ。いつ立哨するか、生徒会内で共有できていないから誰も来ないのだろ。日付を決めて共有しない渡里が悪い」









………あ、そう。








やっぱり先生の中では、全て私が悪いことになっているんだ。









…もう良いけど。別に。










諦めて無言を貫いていると、先輩と香織が声を上げた。





「長谷田先生。いつも渡里ちゃんから生徒会の事情を聞いているよ。この際言わせてもらうけどね、今の生徒会は本当に有り得ないよ。渡里ちゃんが真面目だからどうにかギリギリで維持できているだけで、生徒会崩壊だよこんなの」

「それなのに…日付を決めて共有しない渡里ちゃんが悪いだって? 長谷田先生、最低だよ」

「先生なのに。生徒会活動に参加しない生徒を指導せず、真面目に取り組んでいる紗奈に当たるなんて。長谷田先生…他の8人から、弱みでも握られてんの?」





先生は何も言わず、ただ目を閉じている。

何かを考えているようだった。








「まぁいいや。みんな、戻るよ」





そんな星乃部長の一言でみんなは校舎の方に向かって歩き始める。


私もみんなと一緒に歩き始めると、名前を呼ばれた。






「…待ってくれ、渡里」





先生は立ち止まったまま、こちらを見た。





「生徒会担当教師は、俺だ。お前には俺の言うことを聞く義務がある。俺が言うことは、確実に遂行しろ。決め事は、渡里から他の8人に共有する。俺からは、言わない。絶対」








………。






…は?









開いた口が塞がらないとはこのことだ。







この人、何言ってんの?







え、何?

長谷田先生は生徒会担当教師としての仕事を放棄して、私にやらせようとしているという認識で良い?









…何と答えれば良いのか分からない。











何も言えず黙り込んでいると、星野部長が口を開いて先生を一刀両断にした。








「グチグチ煩いなぁ!!! 偉そうに俺様ぶる前にやることあるだろ!! 残りの8人への指示や指導はお前の仕事だし、そもそも1人で頑張っている渡里ちゃんに対して、そんな態度で良いと思ってんのかよ!!! お前、教師向いてねぇな!!!!!!」







お……おぉ…。







私も口が悪い自覚があるが、星乃先輩はそれ以上かも。


ビックリしすぎて固まっていると、長谷田先生は溜息をついた。








「…星乃、お前も態度が悪いわ」








その一言を言い残して、校舎に向かって走って行った。











「星乃部長…それにみんなも、ありがとうございます」

「良いってことよ。長谷田がクソなのが良く分かったし」



6人で集団になってキャッキャと声を上げながら昇降口に向かう。







優しい先輩に、後輩に…友達。

私、情報研究部で良かった。






心からそう思った。














………長谷田先生。




私、許せないかも。







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