想箱

初夏

初夏の緑の映ゆるころ

いつもの林道の帰り道

季節外れの暑さに

耐えきれなくなった私は思わず

橋の脇から河原へと降り

白いソックスを脱ぎ捨て

清流の中

その素足を差し出した

流れる水流の

その冷たさに

ついはしたない声を

漏らしそうになるが

どこかでかわりに

ヒバリのさえずる声を聴いた


ちょうど橋の上

同じ帰り道

ゆるりと歩いてきた

彼からの視線を感じた

ほんの悪戯ごころが

制服のスカートの裾を

ほんの少しだけ持ち上げてみせる

きっと照れてしまうに決まってる

そう思ってみれば

なんということか

こともあろうに

彼の視線がますます熱く

注がれてくるではないか

私のその

清流にさらけ出した

その素足に

ふくらはぎに


思わず赤面しそうな衝動に駆られるが

ここで負けてはいけないと

叫ぶ心の声のまま

私はつい

精一杯の強がりで

潤んだ瞳で

こちらを見る彼を見やった


視線の交わった

その瞬間

ほんの僅かな差で

彼がぎょっとした顔で

ニキビの残るその頬を赤らめ

早足で歩き去っていく

『勝った』

そう思った次の瞬間

後悔と

羞恥心が

とめどもなくあとから押し寄せてくる

なんとはしたないことか

愚かな娘だと

思われてしまったのではなかろうか

あいつは淫らな女だと


清き水の中に浸かった

いつしか粟立つふくらはぎは

すでに感覚を失い

清流の流るる音が

あざけ笑うように聴こえた

清流が岩にぶつかる音が

からかう拍手のように聴こえた

汗を吸い込んだブラウスが

急に冷たく感じた


どこかでヒバリの鳴き声がした

その鳴き声になってこのまま消えてしまいたいと思った

清流のせせらぐ音だけが

せせら笑うように聴こえてきた




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