イケメン芸能人と、ひみつの同居生活
第4話 璃青くんの優しさ
○相沢家 リビング(夜)※前回の続き
ソファに見つめ合って座る、茉白と璃青。
璃青に「俺の彼女になる?」と言われ、茉白は何度も瞬きを繰り返す。
茉白(えっと、それってどういう……)
璃青「好きだよ、茉白」
すると、茉白の顎を指で持ち上げたまま璃青の顔が茉白へと近づいてくる。
茉白(えっ、え!? これってまさか、キ……!?)
キスを予感した茉白は咄嗟に目を閉じるが、しばらく経っても彼の唇は落ちて来ない。
璃青「……とまあ、こんな感じかな? さっきの映画のシーンを、ちょっと軽く再現してみた」
茉白(さ、再現!? なんだぁ……)※頬を真っ赤にさせ、拍子抜けする。
茉白(でも、よく考えてみれば芸能人で女嫌いって噂のある璃青くんが、私を好きなわけないのに……)
璃青「ねぇ。少しは俺にドキドキした?」
璃青が、茉白の顔を覗き込む。
茉白「ドッ、ドキドキって……もう! 璃青くんったら、いつまでもからかわないで! お風呂いってきます」
早足で歩いていく茉白の後ろ姿を見つめながら、璃青はぽつりと呟く。
璃青「俺は、からかってなんかいない。茉白を異性として好きだっていうのは本当だよ」
10年前に璃青が茉白に渡した、彼女とお揃いの水色のハートのキーホルダーを手に、璃青は少し切なげに微笑む。
璃青「茉白には、昔のままの “ リオちゃん ” じゃなくて……俺のことを、もっと男として意識して欲しいって思ってるよ」
璃青は、ハートのキーホルダーをぎゅっと握りしめた。
○翌日・学校。2年2組の教室。
現在、5限目のホームルームで委員会を決めているところ。
学級委員の男子「それでは次、美化委員会ー!」※教壇の前に立っている。
図書委員、保健委員と順調に決まっていくなかで、美化委員を募るときは誰も手を挙げず。
教室はシーンと静まり返る。
茉白(あれ? 誰も手を挙げないの?)
学級委員の男子「立候補は、誰もいませんか?」
茉白(学級委員の山田くん、困ってる……)
(ていうか、そもそも美化委員って何をするんだっけ?)
腕を組み、首を傾ける茉白。
※6歳から10年間アメリカにいたため、茉白はまだよく分かっていない日本語もある。
茉白(美化……? 美しいって漢字が入ってるから……あっ! もしかして、Clean? 学校を綺麗にするってこと??)
(それなら、私にもできるかも。)
茉白「……はいっ!」
茉白が元気よく手を挙げ、学級委員の山田は安堵した表情。
学級委員の男子「では、女子の美化委員は片瀬さんで決まりですね。あとは、男子だけど……」
玉木「はい! だったら、俺やりまーす」
茉白のあとにスっと手を挙げた、クラスメイトの男子。
玉木 草太。
サッカー部で、黒髪短髪の爽やか少年。
学級委員の男子「それじゃあ、決定ってことで。次は……」
茉白が玉木の席のほうを見ると、彼と目が合い爽やかに微笑まれる。
茉白は、そんな玉木にペコッと軽く頭を下げた。
○2年2組の教室・ホームルーム後の休み時間
陽彩「ちょっと、茉白〜!」
陽彩が駆け足で茉白の席へとやって来る。
陽彩「茉白ってば、凄いね!」
茉白「え? 何が?」
陽彩「毎週水曜日の放課後に清掃活動がある人気ワーストの美化委員に、自ら立候補するなんて。ほんと、積極的っていうかさぁ」
茉白「えっ、そうなの!?」
茉白(まさか、毎週掃除があるなんて)
(転校してきてまだ一週間足らずだし、そんなの知らなかったよ……とほほ)
担任「おーい。美化委員の二人! 今日の放課後、校内の清掃があるからな。よろしく頼むぞー!」
茉白「わ。さっそく今日から!?」
教室を出て行く前に担任が発した言葉に、目を丸くする茉白。
陽彩「ドンマイ、茉白! 頑張って!」
○放課後・体育館裏(夕方)
美化委員の清掃活動で茉白は校舎外の掃除の担当となったため、体育館裏の掃き掃除をすることに。
校舎外と校舎内を各学年2クラスずつ分散して掃除するため、体育館裏の掃除担当の生徒は茉白を含めて4人。
箒を手に地面に落ちた沢山の桜の花びらや落ち葉を見て、思わずため息をつきそうになる茉白。
茉白(って、いけない。こういうときは、楽しい妄想でもして気分を上げよう……)
茉白の目の前に、小さい璃青が3人現れる。
チビ璃青1『フレーフレー、ま・し・ろ』
チビ璃青2『フレッフレッ、しーちゃん!』
チビ璃青3『頑張れ頑張れ、茉白っ!』
学ランにハチマキ姿の応援団に扮した小さい璃青たち3人が、茉白を応援している絵。
茉白(ふふふ。チビ璃青くんたち、可愛い)
口元がゆるみ、自分の妄想の世界に入り込む茉白。
玉木「おーい、片瀬さーん」
茉白と同じく美化委員の玉木が茉白に声をかけるも、茉白は気づかない。
チビ璃青『しーちゃん。You can do it!(君ならできるよ)』親指を立てる。
妄想するなかで、茉白もチビ璃青と同じように親指をグッと立てる。
玉木「ねぇ、片瀬さんってば!」
茉白「はっ、はい!」
玉木に何度か肩をポンポンと叩かれ、ようやく彼に気づいた茉白は、親指を立てたまま振り返る。
玉木「どうしたの? さっきからボーッとして。どこか具合でも悪い?」
茉白「いっ、いえ。ちょっと頭の中で、小さな璃青くんが……」
玉木「え、璃青くん?」
茉白(って、しまった。玉木くんの前で、何を言ってるの私ーーっ!)
茉白(ついあんな妄想をしてしまったのも、さっき陽彩からスマホに送られてきた、璃青くんの写真を見たせいだ……!)
※学ランにハチマキ姿の璃青の絵。
茉白「Sorry! Don't worry!(ごめん、心配しないで!)」
顔を真っ赤にした茉白は早口で言うと、箒でせっせと落ち葉を掃いていく。
玉木「つーか、片瀬さん。やっぱり英語の発音、めっちゃ良いな」
茉白「えっ!」
玉木に言われ、茉白は自分がつい英語で話してしまっていたことに気づく。
茉白「す、すいません……」
玉木「何で謝るの? 英語が話せるって、かっこいいじゃん」
箒で落ち葉を掃きながら、人懐っこい笑みを見せる玉木。
玉木「ねぇ。片瀬さん、帰国子女ってことは英語得意?」
茉白「えっと。日常会話程度なら少し……」
玉木「まじ!? 片瀬さん、良かったら俺に英語教えてくれない?」
茉白「え?! わっ、私が玉木くんに!?」
玉木「うん。俺、英語がいつも点数悪くて。次に小テストで赤点とったら、顧問に部活停止って言われちゃってやばいんだよ」
茉白(……確か陽彩がサッカー部の顧問の先生は、部員の成績に厳しくて有名って言ってたな)
玉木「頼むよ、片瀬さん。赤点回避できたら俺、片瀬さんの言うこと何でも聞くから!」
茉白(う……。)
玉木に懇願するような目で見つめられた茉白は、当然断れるわけもなく首を縦に振った。
璃青「……誰だよ、あいつ。しーちゃんに、近づき過ぎなんだけど」
茉白が玉木と体育館裏で話す様子を、璃青が校舎の3階の窓から不機嫌そうにじっと見ていた。
○学校の体育館裏・1時間後。
ようやく掃き掃除が終了し、花びらや落ち葉を回収したゴミ袋は6袋になっていた。
玉木「ごめん、片瀬さん。俺、さすがにそろそろ部活行かないとやばくて」
男子「あっ! 僕も、塾の時間だ。遅刻する」
女子「あたしも、保育園の弟のお迎えが……」
玉木と他の二人が、茉白に申し訳なさそうな顔をする。
茉白(みんな、用事があるんだ……)
茉白「いいよ。あとは私がやっておくから」
玉木「片瀬さん、サンキュー」
男子「ありがとう!」
女子「ほんとにごめんね」
玉木たち3人が去っていき、茉白だけが1人ぽつんと体育館裏に残される。
茉白(みんな用事があるんだもん。仕方ない)
茉白「よし。ファイトだ、私!」
先ほどのチビ璃青の応援を思い出して微笑むと、茉白はゴミ袋を手に歩きだす。
茉白(一度に全部は運べないから、2袋ずつ。だから、3往復か……道は長い)
体育館裏から遠く離れたゴミ捨て場のほうを見据え、茉白は小さくため息。
茉白(だけど、自分の仕事は最後までちゃんとやらないと!)
ふたつのゴミ袋を引きずるようにして茉白が運んでいると、そこへ璃青がやって来る。
璃青「……あれ? しーちゃん?」
茉白「り、璃青くん!?」
璃青「こんなところで、何やってるの?」
茉白「ゴミ捨て。美化委員になったから、ここで掃除してたの」
璃青「そうなんだ」
茉白の言葉に、璃青が眉をひそめる。
璃青「それにしても、なんでしーちゃんが1人でゴミ捨てをしてるの? 他の委員の人は?」
茉白「みんな、部活とか用事があるって言うから。私がやっておくよって言ったの」
璃青「……しーちゃんって、昔からそうだよね。一度だけ家で友達何人かで遊んだときも、おやつのケーキを選ぶときにしーちゃんが『私は最後で良いよ』って言って。自分の食べたかった物を食べられなかったり」
茉白「はは。ほんと私って、お人好しっていうかバカだよね……」
璃青「ううん、そんなことない。俺は、しーちゃんのことそんなふうには思わない」
茉白「璃青くん……」
璃青「しーちゃんは、昔から変わらず優しくて。困ってる人を見ると放っておけなくて」
璃青「俺は、茉白のそういうところ……好きだよ」
真剣な眼差しの璃青に、茉白は胸がドキドキする。
璃青「しーちゃんは、いつも頑張ってて。ほんと偉いね」
璃青が、茉白の頭をポンポンと優しく撫でる。
そして璃青は、茉白が持っているゴミ袋をひとつ取った。
璃青「俺も手伝うよ」
茉白「いや。そんな……璃青くん、美化委員じゃないのに悪いよ」
璃青「悪くない。俺がしーちゃんを、このまま一人で放っておくなんてことはできないよ」
璃青「頑張るしーちゃんも好きだけど。あまり一人で無理しないで」
茉白「……ありがとう」
それから璃青と一緒に、ゴミ袋をゴミ捨て場まで運ぶ茉白。
○ゴミ捨て場の前(数十分後)
全てのゴミ袋を二人が運び終える頃には、辺りは薄暗くなっていた。
茉白「璃青くん、ありがとう」
璃青「ううん」
茉白「そういえば璃青くん、私に何か用?」
「ていうか今更だけど、璃青くん私と二人でいるとまずいよね」
彼が芸能人であることを思い出した茉白は、璃青からさっと離れる。
それを見た璃青は、少し悲しげ。
璃青「放課後、ここには人が滅多に来ないから大丈夫だよ」
璃青は一応辺りを確認するように見回し、ブレザーのポケットに片手を入れてゴソゴソ。
璃青「……はい」
璃青が家の合鍵を茉白に渡す。
茉白「えっ、鍵!?」
璃青「うん。これを渡すために来たんだ。今日は母さんが仕事の遅番で、帰りが遅いから。このまま帰っても、家に入れないからさ」
茉白(そっか。紫さんは、病院で看護師の仕事をしてるから)
茉白「わざわざありがとう」
茉白が、璃青から家の合鍵を受け取ったとき。
玉木「片瀬さん!」
茉白「たっ、玉木くん!?」
部活に行ったはずのクラスメイトの玉木が、走って戻ってきた。
玉木「やっぱり、片瀬さん一人にゴミ捨てを任せたら悪いなと思って。気になって戻ってきたんだけど……って!」
璃青を見て、目を丸くする玉木。
玉木「あっ、相沢璃青!? え、なんで片瀬さんが相沢と一緒にいるんだよ」
茉白「えっと……」
玉木「そういえば、この間の体育のバスケのときも、片瀬さんと相沢がなんか仲良さげに見つめ合ってたし」
茉白(うそでしょ!? 今回だけでなく、この前の体育のときも玉木くんに見られていたなんて)
玉木「今だって、こんなところで二人きりで会ったりして。もしかして、二人って知り合い? まさか、付き合ってたりして……?」
茉白「えっと……」
茉白(まずい。ど、どうしよう……)