日常を返せ!
「つまり、誘拐された奴が誘拐した奴の命令で人を殺していると言うのか?」

「はい、わたしはそう思います」

「にわかには信じられないが、もしそれが本当なら一人ずつに見張りを立てて、保護しないといけない」

「わたしの話を信じてくれるんですか?」

 てっきり馬鹿にされて一蹴されると思っていたが、犬飼刑事は真面目に応えてくれた。

「全くありえない話ではないからな。これ以上被害を増やさない為にも、早速上に話をしてみようと思う。だから安心し──」

 犬飼刑事がそう言ったところで、大きな何かがぶつかった音が聞こえた。

 その後にスマホがコンクリートに落ちた音がして、驚いてスマホを耳から離す。

「え、犬飼刑事?」

 何が起きたのか分からないわたしは、戸惑いつつもスマホをもう一度耳に当てる。

 低い獣のような唸り声が聞こえたが、それが苦しむ犬飼刑事だと知ると、血の気が引いた。

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