日常を返せ!
 すぐに起き上がると、わたしの右手には何かを持っていた。

 それは羽間の使っていた十徳ナイフで、刃には血が付着している。

 そしてわたしの下にいる羽間に視線を向けると、胸元を血で赤く染めていた。

「なんで自分を刺しているのよ!」

「ふふっ、何ででしょうね?」

 羽間の行動に意味が分からず叫ぶと、羽間は痛みで顔を顰めて答える。

 だけどその声音は楽しそうに聞こえる。

「わたしを殺すことで、あんたの復讐は終わりでしょう。なのに、どうして死のうとしてるの?」

 わたしの言葉に羽間が愉快そうに笑う。

 笑う度に胸元の傷口から血が滲んでいるが、気にしていないようだ。

「まだわからないんですか?」

「なにが?」

 そう尋ねると、羽間は一瞬で笑顔を消して忌々しげにわたしを睨む。

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