婚約解消直前の哀しい令嬢は、開かずの小箱を手に入れた

エレオノーラと、開かずの小箱

「これは……魔術で封印されておりますね」

 魔術師セルギウスは言った。
 彼がしげしげと観察しているのは小さな木箱。両手で持てるサイズの木箱には細かな彫りが施してあり、これまた繊細な金具が箱の蓋に打ち付けられている。

「封印?」
「ええ。ほら、この金具。なんの仕掛けもないのに蓋が外れないでしょう。おかしいですよ、鍵もかかっていないのに開かないなんて。封印されているとしか思えません」

 きっぱりと言い切ったセルギウスに、フローレスカ侯爵家令嬢エレオノーラは驚きを隠せなかった。

(魔術で封印された箱……なぜこのようなものが、うちの屋敷に?)

 つい先日、エレオノーラは屋敷の宝物庫でこの木箱を見つけた。埃をかぶっていたその箱は古ぼけていて、高い棚の上にひっそりと置かれていた。
 埃っぽいものの、セルギウスの見立てでは箱のつくり自体古いものでは無いらしい。軽く振ってみると、中からはカラカラと音がした。小さく固いものが転がっているのだろうか、空っぽということは無いようだ。
 
 この木箱、エレオノーラがいくら開けようと試してみても、開くことは無かった。力を込めても、金具をカチャカチャと弄ってみても、ビクともしないのだ。

 
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