御曹司は離婚予定の契約妻をこの手に堕とす~一途な愛で溶かされました~
「用があるのは君じゃない」

 葵さんは彼女をチラリとも見ない。

「瑠衣!」

 様子をうかがっていた私に気づくと、葵さんは親しみを込めた声音で私を呼んだ。

「は、はい」

 その場にとどまったままの三浦さんがこちらを睨みつけてきたが、次の瞬間には表情を取り繕って葵さんを見上げる。

「成瀬さんとランチですか? あっ、よかったら、私もご一緒したいです。小早川さんと話す機会もなかなかないですから、これを機に仲良くできたらなあって」

 彼女は一心に葵さんを見つめており、近づいてきた私を視界にいっさい入れない。

「仲良く?」

 葵さんが、やっと三浦さんに視線を向けた。それは冷淡どころか、嫌悪すら感じられるようなものだ。

「ここは職場だぞ。円滑な人間関係を築くのは重要だが、友達ごっこをする場ではないし、俺にもそんな趣味はない」

「そ、そんな。私はただ、いろんな人と親しくして、仕事をしやすくしようと……それに、成瀬さんだって」

 そう言いながら、私をチラリと見る。

「瑠衣は俺の妻だ。休憩時間を彼女と過ごすのに、なにか問題でも? 君の場合は仕事をしやすくするというより、肩代わりしてもらっているんじゃないか? 俺の耳にも、いろいろと話は聞こえてきている」

 葵さんのストレートな言葉に、周囲に緊張が走る。

「押し付けるだなんて。もしかして、成瀬さんがそう言ってるんですか?」

 器用にも、彼女は涙で瞳を潤ませた。

「成瀬さん、元カレと私の仲がいいのが気に入らないからって、ひどいです」

 ここで言う話でもないのに、わざわざそれを口にするところが信じられない。
 私の事情をいくら葵さんが知っているとはいえ、さすがに彼もいい気はしないだろう。
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