御曹司は離婚予定の契約妻をこの手に堕とす~一途な愛で溶かされました~
「る、瑠衣」

 すっかり忘れていたが、この場にはまだ弘樹がいた。
 豹変した三浦さんの剣幕と葵さんの迫力に気圧されたのか、彼はすっかりおとなしくしていたようだ。

「人の妻を、親しげに呼ぶのはやめてもらおうか」

 葵さんの厳しい口調に驚いた弘樹は、私へ伸ばしかけていた手をそっと脇に降ろした。

「あなたとはお別れしたはずですが、まだなにか用がありますか?」

 これは、私がけじめをつけるべきことだ。葵さんまかせにはしたくなくて、先に口を開いた。

「その、すまなかった。る、成瀬なら許して――」

「私をなんだと思っているんですか?」

 聞くに堪えない言い訳の予感に、彼の言葉を遮った。

「私にも感情はあるんです。突き放されれば不安にもなるし、裏切られれば傷つくのは当然。なにをされても、平気なわけがないじゃない!」

 語気を強めた私に、弘樹がひゅっと息をのむ。
 こんな感情的な姿など、誰にも見せたことがない。

「お、俺は、渚に向けるような心からの笑みを、見たかった。成瀬は、いつも俺に遠慮しがちで……」

「それは、お前が瑠衣の信頼を得られていなかっただけだろ。俺の前では、笑顔も見せるし涙も隠さない。かわいくて、気遣いもできる最高の妻だ」

 すかさず口を挟んだ葵さんに「持ち上げ過ぎだから」と抗議しながら、彼の胸もとを軽く叩いた。
 くすくすと笑う葵さに、ハッと我に返る。人前で、あまりにも馴れ馴れし過ぎたようだ。
 そろりと弘樹の方を向くと、彼は衝撃を受けたように呆然と私を見ていた。
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