あやかし王は溺愛する花嫁に離縁を言い渡される

俺様王の初恋

 淡い虹色に彩られた雲の上に、その国はあった。

 ――あやかしの国。

 まるで天界のように美しく平和なその国で人々は幸せに暮らしていた。

 『人々』とはいっても、見た目は人間にそっくりではあるが、『人』ではない。

 そこに住む者たちは皆、『あやかし』であった。

 あやかしとは、妖怪や怨霊といった禍々しい邪悪な存在ではない。

 人ではなく化け物でもなく神でもない。

 淡く曖昧な、まるで雲のように変幻自在の存在である。

 あやかしの中心部には豪壮な御殿が鎮座している。

いくつもの大きな殿が集まり宮となっていて、その規模は村や里ほどの広大な敷地だ。

その御殿に住んでいるのが、あやかし王。

あやかしの国を守る強大な力を有した唯一無二の存在だ。

あやかしの国の周辺では魑魅魍魎の妖魔が飛び回っていて、それらがあやかしの国に入るのを防ぐのが王の務めだ。

しかし、あやかし王の力が強すぎて、ここ何百年も外部から侵入してこようとする命知らずな妖魔はいない。
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