このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
第四章:新しいお仕事ですか?
 クライブは、何度目かになるかわからないため息をついた。原因は目の前のエーヴァルトにある。
「明日は、マリーが来る日だよな」
 そう言って、うへへへへと不気味な笑みを浮かべるのだ。
 これを朝から何度も何度も聞かされているクライブは、ため息しか出てこない。とにかく、書類を確認しているときに「うへへへへ」「ぐへへへへ」と変な笑い声が聞こえれば、集中力も途切れてしまう。
 ベルを鳴らして侍従を呼び、お茶を淹れるように指示する。
 こんなエーヴァルトは、話を聞かないと永遠に不気味な笑みを浮かべるに違いないからだ。となれば、クライブの仕事が進まない。その結果、帰れないという羽目になる。
 近頃は、夕食時には屋敷に帰れるようにと仕事を調整していた。それはイリヤとマリアンヌがいるからで、彼女たちと共に過ごす時間は悪くないと、そう感じている。
「陛下。少し、休憩をなさったほうがよろしいのではありませんか?」
 クライブも、こういった声かけができるくらいの余裕はある。
 エーヴァルトは、ぐへぐへと怪しく笑いながらも必要な書類に目を通して、必要な判断ができているからだ。これがもうしばらくすると、涎を垂らしてへらへら笑って、手元の書類が動かなくなる。となれば重症。そうなる前に彼の話を聞いて気分転換させる必要があった。
「そうだな。今日は真面目に執務をこなしたからか、少し疲れたな。明日、マリーに会えると思うと、頑張れる気持ちになる」
 そう思っているのはエーヴァルト本人だけである。クライブから見たら、だらしない顔で仕事をしているようにしか見えない。それでもまだ、この場にクライブがいるからいいのだ。
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