婚約者に捨てられた夜、八歳年下の幼馴染みにプロポーズされました。
 昨日まで婚約していた一馬は、職場の同期だった。
 昨年の春、一馬が新入社員横戸(よこど)リンの教育係になり、急に連絡が減った。
 と思ったら昨日の朝、会社裏の寂れた喫茶店に呼び出された。

 なぜか話し合いの場に同席している横戸は、一馬の腕に自分の胸を押し当てながら微笑んでいる。
 私が席に着くより早く、一馬が百万円の札束(手切れ金)の入った封筒を投げつけてきた。

「俺、リンちゃんと結婚する。リンちゃんには俺が必要で、俺にもリンちゃんが必要なんだ。俺達のために、別れてくれるよな」
「ごめんなさい、佐藤先パーイ。あたし、一馬先輩のこと好きになっちゃって……優しくて、誠実に仕事を教えてくれるところに惹かれて」

 私の目の前で甘々な雰囲気を出して見つめ合う二人。
 誠実な人間は、入籍直前に婚約破棄しないから。


 なんで私はこんな男と結婚するつもりだったんだ。
 頭の中が一瞬で冷めきったからわからん。
 捨てないでとか、考え直してなんて、ドラマみたいなセリフがでてこない。
 なんで気づかなかったんだろうと、そんな気持ちでいっぱいだ。
 なんとかしぼりだした言葉は我ながら馬鹿みたい。

「ああそう。私は私で幸せになるから、あんたたちもお幸せにね」

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