元令嬢は俺様御曹司に牙を剥く 〜最悪な運命の相手に執着されていたようです〜

最悪な出会い

 玖珂製薬。
 元々研究者だった祖父が立ち上げた小さな製薬会社だったが、そこで作り上げられ国の承認を得た新薬はひとつやふたつではない。沢山の命を救う薬たち。それらを生み出す祖父は誇りだった。

 しかし、祖父が亡くなり父に引き継がれた会社は、研究費用がかさんで倒産寸前。さらに両親が交通事故で亡くなると、それまで玖珂製薬の令嬢として過ごしていた私の人生は一変してしまった。

 会社は当時多岐分野のM&Aを推し進めていた久恩山グループにより買収された。さらに忌み子と言われ親戚の誰もが引き取ってくれなかった私は久恩山家に引き取られた。私を引き取る代わりに、久恩山は玖珂製薬を破格の値段で買収したのだ。

 当時高校一年だった私は、そんな久恩山の人たちが憎かった。移り住んだ久恩山のお屋敷は、それまで住んでいた玖珂のお屋敷からほど近い高級住宅街だったが、その中でもひときわ大きな久恩山邸に住まなければならないことは屈辱でもあった。

 父も母もいない。会社もない。大切なものは、すべて久恩山に奪われてしまった。

 それなのに、久恩山の人たちは皆、私に同情した。旦那様、奥様のみならず、使用人の誰もが私を腫れ物のように扱う。

 私のために用意された客室は、風呂もトイレも併設されていた。生活は不自由なかったけれど、可哀想という視線が嫌で仕方なくて、私は学校の時間以外はほぼ客室から出ずに過ごしていた。

 そんなある夜。のどが渇いて、水を貰おうと食料庫へ向かった。誰にも会いたくないから、深夜にこっそりと。

 けれど、食料庫の扉を開け、はっと立ち止まった。明かりがついていた。その下で、引き出しを開け何かを取り出している男性がいたのだ。

 飛鳥との、最悪の出会いだった。
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