元令嬢は俺様御曹司に牙を剥く 〜最悪な運命の相手に執着されていたようです〜
 ブッフェに並んだ料理はどれも一級品らしい見た目だ。ウェイターから渡されたお皿に、少しずつ盛り合わせ口に運んだ。

 どれも絶品で、この味を自社で商品化するならスナック菓子がいいな、など勝手に妄想を繰り広げていく。ここまでの再現は無理でも、いつか監修できたらいいな、なんて思っていると、不意に誰かに名前を呼ばれた。

「色春」

 顔を上げる。チャコールグレーのシャドーストライプのスーツに身を包み、ワインボトルを手にこちらに微笑む男性がいた。

冬梧(とうご)、くん?」
「やっぱり、色春だ」

 彼は人当たりの良い笑みを浮かべこちらに歩み寄る。

「綺麗になったな」

 目の前にやってきた冬梧くんは、優しい笑みを崩さずに私の瞳を覗き込んだ。

「冬梧くんは、変わらないね」
「そう?」
「昔と変わらず、格好いい」
「ありがとう」

 彼は、私の大好きだった人。
 ――剣崎(けんさき)冬梧。私が玖珂製薬の令嬢だった頃の、婚約者だ。
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