元令嬢は俺様御曹司に牙を剥く 〜最悪な運命の相手に執着されていたようです〜
「もうすぐ特許の期間が切れる。と思ったら自分が二年育てた娘の婚約者に、御曹司が名乗り出た。万々歳だろうなぁ、困ったら久恩山に泣きつくコネができたんだから」

 飛鳥はそこまで言うと、不意に真剣な顔でこちらを覗いてきた。

「伯母さんのこと、恨むか?」

 確かに、父と母が私に遺してくれた、私に入るはずだったお金を横取りされたのは酷いと思う。けれど――

「ううん。だって、たった二年だけだけど、育ててくれた身内は伯母さんだけだから」

 でも、胸に決めたことが一つある。

「学費は、もう返さない!」

 そう宣言すると、飛鳥はケラケラ笑った。

 全てを食べ終え料亭を出ると、運転手さんが控えていた。お店の前には、いつもの黒塗りの高級車が停まっている。

 料亭を出た所から、飛鳥は私と手を繋いでいてくれた。ふわふわとした気持ちで車に乗り込む。

「飛鳥ってすごいよね」

 改めて伝えると、「何が?」と聞き返される。

「だってさ、私のことが好きだからって、普通会社に多額の出資持ちかけないよ!」

 思い返したらおかしすぎる。クスクス笑っていると、飛鳥はドヤ顔をこちらに向けた。

「言ったろ。お前が好きだから、どうしても手に入れたかったんだよ」
「そこに気持ちがなくても?」
「たとえ始めは気持ちがなかったとしても、お前が俺を好きになったんだから同じこと」
「もう、何それ」

 自信家で、何でも思い通りにしてしまう。この人の策略に、私もまんまとはまってしまったということか。

「でも、嫌じゃないだろ?」
「うん、好き」

 繋がれた手を、ぎゅっと握った。飛鳥がぎゅっと握り返してくれて、それだけで幸せに満たされる。私は、とんでもない男に愛されてしまったんだなと、改めて感じた。
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