学園王子の彗先輩に懐かれています

3 女子からの嫌がらせ



 ○学校の廊下(2年生の教室がある階)休み時間。

 王子3人に話しかけられた奈子を、2年女子がジロジロ睨んでいる。


 奈子(ああ……っ! アンニュイ王子だけじゃなくて、スマイル王子とストイック王子のファンの方々にも睨まれている気がする……!)

 湊斗「もしかして次音楽室? さっきまで俺たち使ってたよ」
 奈子「…………」
 彗「ネコ?」

 奈子(ど、どうしよう! 会話していいのかな!?)


 ここでどう答えればいいのか迷っていると、ちょうどチャイムが鳴った。
 キーンコーンカーンコーン


 奈子(!! ナイスチャイム!!)

 奈子「あのっ、遅れちゃうので失礼します」
 

 王子3人と目を合わせないよう、ペコッとお辞儀してから横を通り過ぎる。
 そのまま小走りでその場から離れた。


 奈子(まさかいきなり会っちゃうなんて。敵が増えた気がするし、どうしよう!)


 まだ廊下にいた同じクラスの女子たちも、奈子や瑠美に続いて音楽室に入ってくる。
 教室とは違って音楽室は自由席なので、奈子は瑠美と並んで座った。
 あとから入ってきた女子3人が、どこに座るかとキョロキョロしていることに気づく奈子。


 女1「どうしよう。前しか空いてないよ」
 女2「前はやだよね」
 女3「どうする?」

 
 奈子の隣がちょうど3席空いている。席もわりと後ろのほうだ。


 奈子「こっち空いてるよ」
 女子たち「!」
 3人でコソコソと目を合わせている。

 奈子「?」
 女子たち「あっち行こ」
 奈子「!」


 女子3人は、奈子を無視して前の席に座った。
 チラッと奈子を見た女子たちの目には、恨めしい気持ちが入っていた気がする。


 奈子(え……?)

 瑠美「何あれ。せっかく奈子が親切に教えてあげたのに」
 奈子「…………」


 ムスッと唇を尖らせて怒る瑠美。
 奈子は、さっきの3人以外のクラスメイト(女子)からも冷たい目で見られていることに気づく。


 奈子「……あのさ、瑠美」
 瑠美「何?」
 奈子「1年生って、まだ王子のファンクラブとか入ってないよね?」
 瑠美「え? みんなもう入ってると思うよ」
 奈子「えっ!?」

 奈子(一昨日入学したばっかりなのに!?)

 瑠美「あ、そっか。昨日奈子は早く帰っちゃったもんね。実は、昨日の放課後に各ファンクラブの入会説明会があったんだよ」
 奈子「にゅ、入会説明会?」
 瑠美「そう。それぞれの王子の特徴やアルバムを1年生に見せて、誰のファンクラブに入るか決めるやつ」

 奈子(何それ!?)

 瑠美「もちろん入らなくてもいいんだけど、ほとんどの子が入ったって聞いたよ〜」
 奈子「瑠美は……?」
 瑠美「私はまだ入ってない。誰にするか決められなくて……って、それよりさっきのは何!? 彗先輩だけじゃなくて、湊斗先輩や律之進先輩とも知り合いなの!?」


 すでに授業は始まっているため、小声でコソコソと話しかけてくる瑠美。
 瑠美にだけはちゃんと説明したいところだけど、近くにいる他の女子も2人の会話に耳をすませていることに奈子は気づいていた。


 奈子(ここじゃ話せないよ)

 奈子「ごめん。あとで話すね」
 瑠美「うん? わかった」

 奈子(はぁ……。まさか、先輩たちだけじゃなくて同級生までもファンクラブに入っちゃってるなんて)


 みんなの顔を見る限り、奈子を敵視しているのは一目瞭然だ。
 

 奈子(まだ瑠美以外の友達、できてなかったのに……)


 前途多難すぎる自分の状況に、奈子はガックリと肩を落とした。


 ○女子更衣室。

 体育の授業のため、体操着に着替える奈子と瑠美。
 半袖を着たあとに長袖の体操着を探したが、見つからない。


 奈子「あれ? 長袖のジャージがない」
 瑠美「忘れた?」
 奈子「ううん。絶対にあるはず……なんだけど」
 瑠美「ごめん、奈子。一緒に探したいけど、私当番だから先に外行かなくちゃ」
 奈子「大丈夫だよ」
 瑠美「ごめんね! じゃあ先に行ってるね」
 奈子「うん」


 瑠美に笑顔で手を振り、再度ジャージを探す。


 奈子(おかしいなぁ……)


 奈子の様子を半笑い顔で見ていたクラスメイトの女子たちが、奈子に近づいてくる。


 女1「白井さんのジャージ、さっき女子トイレで見たよ」
 奈子「えっ?」

 奈子(女子トイレ?)

 奈子「なんでそんなところに……」
 女2「さあ。知らな〜い」
 女子たち、クスクスと嫌な笑いをしている。

 奈子「……教えてくれてありがとう」


 そう小さな声で言うなり、奈子は更衣室を出た。


 ○女子トイレ。洗面台の前。

 洗面台に置かれて、上から水を流されビシャビシャになった自分のジャージを発見する。
 たまたまトイレにいた他のクラスの女子たちは、そんな状態を見ても無視だ。
 ニヤッと笑ったりする子もいた。


 奈子(ひどい……。こんな嫌がらせをしてくるなんて……)


 今まで友達と揉めたことのない奈子は、初めての嫌がらせに涙目になる。
 水を止め、ジャージを絞るけど濡れすぎていてとても着れそうにない。
 4月とはいえ、今日は気温も低く長袖なしでは結構寒い。


 奈子(どうしよう……。半袖で行くしかないかな)
 ※真面目なのでサボるという考えはない。


 濡れたジャージを更衣室に干し、奈子は震える体を抱きしめるようにして昇降口に向かった。


 ○学校の廊下。


 奈子(うううっ! 寒いっ!!)


 生徒からこんな寒い日になぜ半袖? という目で見られながら、廊下を歩く奈子。
 もうすぐ昇降口に着くところで、後ろから声をかけられた。


 彗「……ネコ?」
 奈子「! ……す、彗先輩……」


 振り向くと、体操着姿の彗が。
 半袖の奈子を見て目を丸くしている。


 彗「……なんで半袖?」
 奈子「ちょ、ちょっと事情が……」
 寒くて口が震えているため、うまく喋れない。

 彗「寒くないの?」
 奈子「寒いです、けど大丈夫……です」
 彗「…………」


 バッと自分のジャージを脱いで半袖になる彗。


 奈子(えっ?)

 彗「ん」


 脱いだジャージを奈子に差し出してくる。


 彗「これ着て」
 奈子「ええっ? で、でも、そしたら彗先輩が……」
 彗「俺は保健室に行くからいい」
 奈子「! 体調が悪いんですか?」
 彗「いや。体育館に行く途中でめんどくさくなったから寝ようと思って」
 奈子「…………」
 彗「だからこれ着ていいよ」


 彗は奈子の手にジャージを押しつけてきた。
 迷いつつ、とりあえず受け取る。


 奈子「でも……」

 奈子(これを着たら、さらに女の子たちから嫌われちゃうんじゃ……)

 彗「大丈夫だよ。違う学年のジャージでも平気だから」
 体操着には、各学年ごとに色の違うラインが入っている。

 奈子(心配してるのはそこじゃないんです……!)

 奈子「えっと」
 彗「…………」
 バサッ
 奈子「!」


 迷っている奈子の手からジャージを取り、無理やり頭から被せる。


 彗「いいから早く着て。風邪ひく」
 奈子「…………」

 奈子(じ、自分のとは違う香りが!!)


 覚悟を決めて袖を通したけれど、背の高い彗のジャージはかなりブカブカだ。
 奈子がちゃんと着たのを確認して、彗はニコッと微笑む。


 奈子「!!」

 奈子(これ以上女の子たちに嫌われたくないけど、そのためにこんなに優しくしてくれる人の好意を無下にしたくない)

 奈子「ありがとうございます」
 彗「うん」
 奈子「洗って明日返しますね」
 彗「いいよ。今日の午後も使うから、終わったら保健室に持ってきて」
 奈子「わかりました」

 奈子(できるだけ汚さないようにしなくちゃ!)


 そこでチャイムがなり、慌てる奈子。
 

 奈子「あっ、あの、じゃあ失礼します!」


 バタバタと走っていく奈子の後ろ姿を見送ったあと、保健室に向かう彗。


 ○保健室

 サボり常習の彗が保健室に入ると、ぽっちゃりとした保健教諭が彗を見てギョッとした。


 先生「宇月くん、なんで半袖!?」
 彗「貸した」
 先生「今日は半袖じゃまだ寒いでしょ!」


 先生がブランケットを肩からかけてくれるのを、彗はボーーッとしながら受け入れている。


 先生「どうかしたの?」
 彗「んーー……なんかイラッとする」
 先生「私に!?」
 彗「違うよ」
 先生「?」


 保健室の窓から見える校庭を横目で見る彗。
 そこでは奈子のクラスの子たちが体育の授業をしていた。
 奈子と瑠美だけみんなの輪から少し離れたところにいるのが見える。


 彗「俺のネコに手を出してるのは誰だ……?」


 彗は、少しだけダークな顔でポソッと呟いた。
 
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