【リレーヒューマンドラマ】佐伯達男のおへんろさん

【高野山へつづく道…】

私・しげみちは、高野山《ほんざん》へ向かって歩いた。

高野山《ほんざん》へ向かう前に、阿波の霊場・十から一の札所を逆にたどる形で行くようになっていた。

片足のマヒを引きずりながら歩いている私は、逆順で十番から一番の札所を参拝した。

一番札所の霊山寺《りょうせんじ》で逆順参拝を終えた。

私は、納径帳《おしゅいんちょう》に最後の朱印《しゅいん》をつけた。

その後、国道11号線を歩いて徳島方面へ向かった。

それから5時間後に徳島沖の洲マリンターミナルに到着した。

(ボーッ!!ボーッ!!)

私が乗り込んだ南海フェリーが汽笛を鳴らしながら出航した。

和歌山港に上陸したあとは、高野山《ほんざん》に向かって歩くだけ…

だが、私の身体《からだ》はボロボロになっていた。

プロ野球の審判員時代に無理したことが原因で、脳こうそくを患っていた。

それでも私は、片足のマヒを引きずりながらも四国へんろの旅を続けた。

甲板《デッキ》から海をながめている私は、静かにつぶやいた。

海もうすぐ、旅が終わる…

高野山《ほんざん》にたどり着いたら、そこで人生を終えよう…

私の命は…

もう長くない…

和歌山港でフェリーから降りたあと、私は高野山《ほんざん》に向かってひたすら歩いた。

紀の川の流れに逆う形で国道を歩いた。

この時、足が痛み出したので休憩することにした。

私は、紀の川の河川敷にある公園のベンチに座っていた。

この時、私は40代半ばの男性のおへんろさんと出会った。

「大丈夫ですか?」

私にやさしく声をかけたおへんろさんは、私に言うた。

「和歌山港《みなと》からよろけた足で歩いているあなたを見かけたので、心配になりました…大丈夫ですか?」

私は、しんどい声で『大丈夫だよ…』と言うた。

私に優しく声をかけてくださったおへんろさんは、弥太郎《やたろう》さん(46歳)であった。

弥太郎《やたろう》さんと私は、川のせせらぎを聞きながら身の上話をした。

「私は…元はプロ野球の審判員だった…けど…無理とがまんの繰り返しで…脳が病気になった…」
「そうでしたか…おつらい思いをなされたのですね…」

それから30分後であった。

弥太郎《やたろう》さんは、先に高野山《ほんざん》へ向かいますと私に伝えた。

「高野山《ほんざん》の奥の院でお待ちしてます。」

このあと、弥太郎さんは、再び歩き出した。

もう少し休んで行こうかな…

私は、そう思いながら目を閉じたあと眠りについた。

聞こえてくるのは…

川のせせらぎ…

そして…

私が、生まれた日のこと…
< 71 / 76 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop