【リレーヒューマンドラマ】佐伯達男のおへんろさん
エピローグ・奥の院にて…
最後の参拝を終えた私・弥太郎《やたろう》は、あてのない旅に出ることを決めた。

その前に、境内《けいだい》の中にある茶屋で一休みしよう。

この時であった。

茶屋にいたおへんろさんたちと出会った。

「ああ、おつかれさま…兄さんはたしか、宇多津の郷照寺《ごうしょうじ》の境内でお会いしましたね。」
「その声は…正晴さんでは…」
「今、参拝を終えたのね。」
「はい。」
「足が疲れているので、ゆっくり休んでね。」

私は、旅の途中で出会った正晴さん(元タクシードライバー)と身の上話をした。

その後、へんろの旅を終えた白装束のおへんろさんたちが茶屋に集まった。

「ああ、正晴さん。」
「ああ、兄さんは竹林寺《ちくりんじ》でわしのケータイの充電の手助けをしてくださった夏彦さんですね。」

そしてこのあと、奥の院で参拝を終えた5人の白装束のおへんろさんたちが茶屋にやって来た。

8人のおへんろさんたちが茶屋に集まった。

しかし、しげみちさんさんがまだ到着していません。

一体どうしたのか…

【座談会】

私は、空海弘法大師《くうかいこうぼうだいし》…

おへんろさんたちの安全と無事を遠くからいつも見守っています。

9人のおへんろさんの人生ドラマが金剛峰寺《ほんざん》の奥の院で結願《ゆいがん》したあとも、人生はつづきます。

さて、みなさまが待っている茶屋に行きましょう。

8人のおへんろさんたちが集まっている茶屋にて…

今後どのように生きて行きたいのか…また、人生とは何だったのかをお聞きいたします。

まず、夏彦さんにおうかがいします。

夏彦さんは、国選の弁護人ばかりの人生でありました。

今後は、どういたしますか?

夏彦さん「私は…弁護士…と言いますか…法律とかかわる仕事からキョリを置きます。」

法律と関係のない仕事を選びますね…

では、再婚は?

夏彦さん「再婚は…考えていません…」

分かりました。

では、正晴さんはどうなさいますか?

正晴さん「そうじゃのう…わしはこの歳だから…老健施設でのんびりと過ごしたい…」

この旅を通して、どんなことに気がつきましたか?

正晴さん「そうじゃのう…わし一人合点していた面があることに気がついた…わしの一人合点が原因で…知らず知らずに家族を傷つけたと言うことに気がついたよ…」

では、裕介さんにお聞きいたします。

あなたは報道の仕事を通じて、なにを学びましたか?

裕介さん「そうですね…よく考えてみたけど…私は、性格が優しすぎるので報道の現場には向いていませんでした。…シビアな現場に向いていないのに、やみくもに飛び込んだことを、今でも悔やんでいます。」

ではつづいて、せいじさんにお聞きいたします。

あなたの今の率直なお気持ちは?

せいじさん「そうですね…あの時は強く言わなければいけなかった…上からの圧力などで従わざるを得なかった…差し押さえの時、顧客の家族が泣きながらコンガンしていた様子は、私の耳にしっかりと残ってます…夜寝ている時、いつもそんな夢を見ていた…寝付けない日々があった…私の決断力が弱すぎたので、金融会社をやめるタイミングを逃した…グズグズしていた自分がキライだった…」

では、たくやさんにお聞きいたします。

たくやさんが職を転々とした原因はなんですか?

たくやさん「そうですね…しいてあげれば、あせりと気の迷いでしょうか…しかし、あのまま私立高校の付属の短大に行ってもよくなかったと思います。」

なるほど…

では、じゅんぞうさんにお聞きいたします。

あなたは、どうして勉強づくめの日々を送っていたのですか?

じゅんぞうさん「勉強しろ、トップになれ…そう言われ続けて生きてきた…何の苦労もせずにエスカレーター式の私立学園を卒業した自分が恥ずかしかった…その結果、子供の人生を狂った…長男と長女を差別したことがいけなかった…そして、育児を妻に丸投げしたことがいけなかった…」

それでは、喜与彦さんにお聞きいたします。

あなたにとっての理想の老後とは?

喜与彦さん「そうですね…あとになって子供たちに求めすぎたことに気がついた…私たち夫婦が子供たちにアレコレ押し付けたことが原因で、子供ので自立心をそいでしまった…」

これからどうなさいますか?

喜与彦さん「何も考えてはいません。」

最後に、弥太郎さんにお聞きいたします。

あなたは、お父さまの金銭のトラブルが原因で何かとムリガマンをなされましたが…他にも生き方があったのではないしょうか?

弥太郎さん「そう言われてみればそうですよね…たしかに私は…オヤジの問題で何かとムリガマンをしました…定時制高校の話を断ったのは勉強ができなかったわけではありませんでした…学費がかかる…カネの心配がありました…結婚については…考えないことにしました。」

そうですか…

では、最後の質問です。

もし、時をもどしたいのであればいくつの時に戻りたいですか?

夏彦さん「私は…22歳くらいの時です。」

正晴さん「わしは…昭和35年…と言っても、チリ津波が起こらなかったらの時にな…」

裕介さん「私は…大学生の時です。」

せいじさん「私は…高校の時に戻りたいです…進路を選ぶ時間がほしいから。」

たくやさん「中学時代の時です。本当は地元の公立高校に行きたかった…」

じゅんぞうさん「私は…オギャーと生まれたあの日です…一般の家庭の子どもに生まれたかったです。」

喜与彦さん「私もじゅんぞうさんと同じで、オギャーと生まれたあの日です。」

弥太郎さん「できれば小学生時代に戻りたいです。」

ありがとうございました。

その後、8人のおへんろさんたちは旅支度を始めた。

正晴さん「さて、わしはそろそろ旅に出るかな?」

夏彦さん「そうですね。」

じゅんぞうさん「旅のご無事をお祈りしています。」

そして、8人のおへんろさんは新しい旅に出発した。

ああ、そうだ…

まだしげみちさんがたどり着いていなかった…

ところ変わって、紀の川の河川敷の公園にて…

しげみちさんは、ベンチに座った状態で眠っていた。

私は…

空海弘法大師《くうかいこうぼうだいし》です…

しげみちさん…

しげみちさん…

しげみちさんは、眠りについたあと、そのまま亡くなった…

ボロボロになってしまった体を引きずってまでも歩きへんろを続けたが、奥の院にたどり着くことはできなかった。

高野山《ほんざん》にたどり着くことができずに帰らぬ人となったしげみちさんの姿を見た私は、静かに手を合わせた。

私は…

空海弘法大師《くうかいこうぼうだいし》です…

無事に、奥の院にたどり着いたあなたの姿が見たかった(泣)

【合掌】
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