もつれた心、ほどいてあげる~カリスマ美容師御曹司の甘美な溺愛レッスン~
第1章 表通りのビューティーサロンと裏通りの本屋
 5月の連休明け。

 ビルの隙間から見える空は晴れ渡り、風も心地よい午後。

 自転車で近所の小学校へ教材の配達を終え、職場である書店に戻ってきた、わたしの名前は加藤優紀(ゆうき)
 
 現在、25歳。
 この書店で働くようになって、今年で3年になる。
 前職は都内の不動産会社で営業事務していたのだけれど。
 

 店がある場所は青山の裏通り。

 青山と言えば、昔から〈最先端ファッションの発信地〉として知られる街であり、表通りには、国内外の有名なアパレル会社やその旗艦店がひしめきあっている。

 また、その合間を縫うように、おしゃれな店構えのカフェやレストランもあり、街行く人はみな、ファッショナブルな人たちばかりだ。

 だが、道路一本裏に入ると、半世紀前にタイムスリップしたかと錯覚してしまうほど、昭和味たっぷりの商店街が現れる。

 古い建物が立ち並ぶ通りの真ん中あたりの、文字の消えかかった看板を掲げた店が、曽祖父の始めた、開業して77年になる〈高木書店〉であった。

 書店といえば聞こえはいいけれど、かつて、どの町にも一軒はあった、雑誌や漫画ばかりの小さな本屋である。
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