星空の手紙
 目覚めたのは、知らない病院だった。
 頭上のネームプレートを見ても、名前が書かれていない。
 その後、看護師や医師に名前や住所を尋ねられても、知らない、覚えていないと言い張った。
 どうしても、あの町、あの家に帰されることだけは避けたかったのだ。
 そのあと、私を助けてくれたという70代ぐらいの老夫婦と面会したのだが、その二人は親切にも、私を引き取ると言ってくれた。
 1日に2本しかないというバスに長時間揺られ、その夫婦について行った先は、人里離れた小さな村だった。
 電気さえも通っていない、まるで文明というものを放棄しているように見える村だが、僅かな村人たちは誰もが皆、温かい。
 ほぼ自給自足で、日本にはまだこんな場所があったのかと思うほど、美しい自然に囲まれた村だ。
 私が今まで住んでいたところも、決して都会ではなかったものの、空気も水も特にきれいという訳でもなかった。
「助けて頂いて、おまけに、何も聞かずに引き取ってもらったお礼がしたいんです」
 私が夫婦にそう伝えると、日常に必要なことをしてくれたらいい、ここは限界集落で、若者が居ないから、若い人の力を借りたい時には、助けてくれると嬉しいとだけ言われた。
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