冷酷な御曹司に一途な愛を注ぎ込まれて
1.





 幼い頃から思っていた事はがある。


 ずっと母親から逃げ出したかった。


 小さい頃から私の気持ちなんて考えてくれたことはなかった。


 私が成長するにつれて、母の姿を目にする機会は以前に増して減っていた。


 そして、そんな母を見兼ねるように父は母と離婚をした。恐らく母の自由奔放な、身勝手な行動から離婚を決意したのだろう。母ではなく、父と一緒に暮らしたかった。けれど、「アンタも出ていくなら私、今この場で死ぬから」と言われたことで母から離れることができなくなってしまった。


 強制的に母と一緒に暮らすことを余儀なくされた。


 私に「出ていくならこの場で死ぬ」と言っていたにも関わらず、父と離婚をした母は全然家に帰って来なくなった。たまに帰ってきたと思ったらわずかなお金と少しの食べ物のみ。もちろん、スマホのお金なんて払ってくれるわけもなく、自分で生活をしなくてはいけなかった私は高校生になってから子供服などが売っているお店でアルバイトを始めた。


 高校の時から働き始め、ありがたいことに卒業しても働かせてもらっている私も、もう23歳だ。


 子供服を品出ししたり、赤ちゃん用品に触れるたびに、私は子供なんて産めない。絶対に結婚できない。幸せな家庭を持てる自信がないと思ってしまう。


 それ以上に、実家から出る勇気がない。


 『アンタも出ていくなら私、今この場で死ぬから』母から言われたこの言葉は8年たった今も、私の心の足枷となっていた。




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