久我くん、聞いてないんですけど?!
「ちょっと来て」

「はい?」

久我くんは私の手首を掴んだまま個室を出る。

通路を奥へと進み、角を曲がった所でグイッと腰を抱き寄せられた。

そのまま後ろの壁に私を押しつけ、片手を壁について逃げられまいと囲う。

え、これって、壁ドンと腰グイの合わせ技?

「ちゃんと話を聞いてくれるまで離さない。いい?」

「は、はい。聞きますとも。企業コンプライアンスは遵守致します」

「俺とつき合って欲しい」

「何に?」

「はあー?もう…、分からないなら身体で教える」

そう言うと久我くんはジワジワと顔を寄せてきた。

待て!まさか、これはっ…

「わー!ちょっと待った!分かった、分かったから!」

久我くんの顔を両手でグニャッと押し返す。
変顔にしちゃってごめんなさい。

「ね、ちょっと、おかしくない?」

「何が?」

「私、久我くんより4歳年上だよ?おまけに地味だし可愛げないし、恋愛にも興味ない。久我くんなら、もっとこう…、年下の可愛い女の子を彼女にした方がいいと思うよ?」

「余計なお世話です。俺は華さんがいいので」

「なんでそうなるかな。納得いかない」

「納得いかせますよ。だから俺とつき合ってください」

「それは無理」

「どうして?」

「私、結婚するから」

久我くんは、ハッとしたように目を見開く。

「嘘だ」

「ほんと」

「だって、恋愛に興味ないって…」

「恋愛と結婚は別だから」

「どういう意味?」

「どうもこうもない。そのままよ」

スッと久我くんの腕から力が抜ける。
私はスルリとその腕をかいくぐってその場を去った。
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