久我くん、聞いてないんですけど?!
また桜の季節がやってきた。

久我くんと出逢って1年が経ったこの日。

私は純白のウェディングドレスに身を包み、チャペルの扉の前で父さんと腕を組んでいた。

「華…、綺麗だ。こんな日を迎えられたなんて、父さん感激してもう…」

はいはい。
何も言えねえ、のね。

やがてオルガンの音色が聴こえてきて、扉が大きく開かれる。

私は父さんと一礼してから、バージンロードを一歩一歩、踏みしめて歩く。

「きゃー!華さん、美しい」

美鈴ちゃんが、ひときわ大きく拍手してくれる。

課長達も笑顔で祝福してくれ、私は、どうも、と会釈をして通り過ぎた。

祭壇の前で微笑みながら私を待ってくれているのは、どこかの国の王子様のようなかっこいい久我くん。

これは本当に現実?

父さんが私の手を久我くんに託し、久我くんはしっかりと私の手を握りしめた。

「どうしたの?なんだかホワーンとしてるけど」

「だって、なんだかまだ夢みたいで…」

「大丈夫。キスで起こしてあげるから」

ひえっ!
こんな大勢の人の前で?!

「ダメだからね!」

「どうしてさ。誓いのキスなんだから、皆さんの前でしっかり誓わないと。俺が一生、華を幸せにしてみせるってね」

私は何も言えずに真っ赤になる。

「可愛い、華」

「ちょっと、からかわないで。私の方が4つも年上なんだからね?」

「またそれか。恋のイロハは全部俺が教えてあげたのに」

ヒーー!!
こんな神聖な場所でなんてことを!

「まだまだこれからたくさん教えてあげるからね」

「ちょっと、いい加減に…」

すると、ゴホン!と牧師様の咳払いが聞こえてきた。

「あのー、そろそろ始めても?」

「は、はい!すみません」

慌てて正面に向き直る。
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