空色の手紙は執着愛の証 ~溺愛は再会とともに~

それぞれの思いと、誤解


──俺達を残して向日葵の間に誰もいなくなると、紅羽が言いにくそうに口を開いた。


「あの……さっき…おじさまが父に話してた事……実は…途中から聞いていましたの…ただ…ドアの向こう側にいたから所々聞き取れなくて、よく分からなかったのだけど……良くない話…でしたわよね…」

「そうだったのか。…全部話した方がいいか?」

「えぇ。アサトの一人娘として…ちゃんと聞いておきたいの」

「…そこまで覚悟があるんだな……わかった。では話そう」



……そして俺は、さっき親父が伝えた事を最初から紅羽に話した。




一切口を挟まずに聞いていた紅羽だったが、全てを聞き終わる頃には何も言えない状態で呆然としていた。


「…お…お父様は…何て事を……」


そうだよな、一人娘だものな…
心中は計り知れない。


「賢太郎……父は…警察につかまりますの?……アサトは…これからどうなりますの!?」

と、俺の腕を掴みながら紅羽が叫ぶ。


「それはまだ分からない。……少し落ち着こう、紅羽」

そんなこと無理だと分かってはいるが、そう声をかけるしかなかった。


「賢太郎……会社はどうなりますの?……私はどうしたらいいの?……私はこれから…どうやって生きていけば…」

堪えていた涙を溢れさせながらそう言うと、俺の胸に顔を埋めた。



紅羽に全てを伝えたのは早計だったか…

…判断を誤ったな。

ハァ…



俺のため息に気付いたのか、紅羽が泣きながら言う。

「ごめんなさい…賢太郎……こんなこと…迷惑よね……」

「…あ、いや…」

「…入院しているママに…何て言えばいいの……私はこれからどうしたら…」

あぁ、そういえば紅羽のお袋さんは病気で長期入院してるんだったな…


俺が言葉を出せないでいると、紅羽の手が俺の背中に回った。


「お願い、賢太郎……私を…強く抱き締めて…」


「……すまないが、それはできない」
申し訳ない気持ちもあるが、断った。


「…無理を言ってるのはわかってる……でも…不安で不安で…どうしようもなくて……誰かにすがりたいの…」


涙ながらにそう言われ、その気持ちはわからなくはないのだが、やはり抱き締めるのはな…と躊躇していたのだが…


「私を愛してほしいんじゃない……気持ちのない、形だけのハグでもいい……今だけ…誰かに抱きとめてもらいたいの……もう…不安に…押し潰されて…崩れ落ちそうで…辛くて…」


そう俺の胸で小さく震える紅羽に、よく分からないが懐かしいような感情がわいてきた。


俺の愛を、ではなく、ただ…誰かの…人の温もりを求めている…ということなんだな…


「…形だけのハグでいいなら…」

「…それだけで…充分…」


…情に絆された甘い奴かもしれないが、涙の止まらない紅羽を見捨てることもできず…そっとハグした。


「賢太郎……ありがとう……っごめんなさい……那知さんにも…申し訳な…っ…」

「いいから…」
泣きじゃくりながら謝る紅羽の背中を優しくポンポンとたたく。

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