空色の手紙は執着愛の証 ~溺愛は再会とともに~

賢太郎さんは体を離すと、タオルハンカチで顔を拭った。

「ごめん……あの時のこと…言い訳してもいいか…?」

「言い訳だなんて思わないけど……うん…教えて」



賢太郎さんが話してくれたのは、アサトテーブルウェアの経営状態が悪かった事と、紅羽さんのお父様がしていた悪事の数々。
そして…それを全て紅羽さんに話した、ということだった。


…父親がそんなことをしていたとは何一つ知らず、しかもご病気のお母様もいるなんて…

紅羽さんの心の内を思うと、心にじくじくと切ない痛みを感じた。



「俺は最初『抱き締めてほしい』と言われて『それはできない』と断った。けど……気持ちのない形だけのハグでいい、不安に押し潰されそうで辛いと言われて…放っておけなくて…ハグした。…全てを伝えてしまった責任を感じてたのもあるが……でも理由はどうであれ、那知以外の女性を抱き締めたのは俺が悪い。本当にごめん」

「ううん……そっか…そうだったんだね…。そうだよね…紅羽さん…辛いよね……それは好きな人に抱き締めてもらいたくもなるよ…」

「それなんだけど、紅羽が言ってたんだ。この前、久しぶりに会った俺は、紅羽の好きな俺じゃなかったって」

「え?」

「紅羽は、まだ地元にいた時の、いつも助けてくれる優しい兄の様な俺が好きだったらしくて」

「うん…」

「でも、この前の俺は、紅羽の知らない俺だった」

「うん…」

「それで気付いたらしいんだ、十和田賢太郎って一人の男の俺が好きなんじゃなくて、ただブラコンを拗らせてたみたいだ、って」

「…ブラコン…」

「だから俺も、あの場で言うのもどうかとは思ったけど…紅羽のことはキリと同じ妹の様にしか思えないと伝えたよ」

「…うん」

「あぁ、それと。紅羽が許嫁の話しは無かったことにしようって言ってくれた」


「本当に……?」


だって…
紅羽さん…本当はまだ賢太郎さんのこと…好きだよね…
長年待ってた人だもん…そうそう簡単には諦めきれないよね…


私の表情からそんな思いが見て取れたのか、賢太郎さんが私の頭を撫でながら言う。

「…紅羽がさ、俺のことを『お兄様って呼んでいいか?』って聞いてきた位だから、もうそういう気持ちは無いんだろう。…俺も紅羽の本心なんてわからないけど、本人がそうしたいのならそれでいいと思う」


…そういえば…あの時、確かに『賢太郎』とは言ってなかった。
ちょっと不思議に思ってたけど、そういうことだったんだ…

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