空色の手紙は執着愛の証 ~溺愛は再会とともに~
「これ、兄貴の結婚式の時の写真だね、懐かし~」
旅館と廊下続きの良美さん家に入ると、チェストの上に飾ってある写真立てに目が止まった。
「そうよ~、ほんとに那知ちゃんが可愛くて。私にとったら息子のお嫁さんと変わらないものね、娘も同然よ」
「じゃあ良美さん、娘は那知で4人目だね。あたしと姉貴もいるから。アハハ」
「ふふ、そうね。でも…良かったわ、ほんとに賢太郎もね…」
「…あのさ、ここだけの話。良美さんて、那知と兄貴の関係を知ってたの?昔の」
あたしは自販機で買ってきた缶コーヒーを良美さんに渡しながら、気になってた事を切り出した。
「いえ、知っていた訳ではないわ。でも……やっぱりそうだったのね、って感じかしら」
「知ってたんじゃないんだ」
「えぇ。本当のところは知らなかったわよ。でも…あの時…賢太郎と那知ちゃんの雰囲気っていうのかな、賢太郎が帰る時の2人の感じにピンと来るものがあって。ふふ、母の勘かしらね」
「ふぅん……何か違ったの?」
「言葉で言い表すのは難しいけど、2人の表情とか……そうね、特に賢太郎が変わったと思ったのよ。女性に対してどこか冷めてた子が、那知ちゃんにはこんなに優しい顔を見せるのね、って少し驚いたわ」
「なーる」
「…それからの賢太郎は私でも分かるくらい女っ気がなくなったでしょ?紅羽ちゃんとのお話も断ってたし。…もしかしたら賢太郎はまだ那知ちゃんを想い続けているのかしら…ってずっと頭の片隅にはあったのよね」
「へー…」
「でも、いくら育ての親でも、それは聞いちゃいけないと思って、何も言わなかったわ」
「そーなんだ」
「霧子は?何で賢太郎に那知ちゃんの話を出したの?」
「あぁ、あたしは純粋に那知を紹介したかっただけよ。那知なら女嫌いの兄貴も気に入るんじゃないかってさ。でもそれからすぐに林田と付き合っちゃって、アチャー!って。あたしとしては林田より兄貴を推したかったけどさ、那知が幸せそうだから…まぁ見守ってたってゆーか」
「そうだったのね」
「だから、那知がヤツにフラれたって聞いて、ソッコーで兄貴に連絡したのよ。これはもう兄貴推しっきゃないと思ってさ。まー、あの時は林田への怒りに任せて、フラれた詳細からここに一人で泊まるってことまでマシンガンの如く喋りまくっただけだったけどね、アハハ。で、那知が華舞にも人数変更の連絡をしたって言うから良美さんにもワケを話しといたの」
「ふふ、賢太郎が急に華舞に泊まりたいだなんて言い出すから、嬉しくなっちゃったわ。あれから変わらず純粋な子なんだわ、って」
「で、那知が同室にどうぞ、って言ったんだってね」
「えぇ。でも…那知ちゃんは賢太郎のことも、過去に華屋旅館に泊まったことも全く知らない風で…そこは、アラ?って疑問に思ったけどね。…それでも那知ちゃんがそう言ってくれるのであれば、と私からも同室を許可したの」
「そーよね、フツー女将からは勧めないよね、アハハ」
「ふふ、そうね。でも…那知ちゃんも賢太郎も……本当に結ばれて良かったわ」
「ほんとほんと。あたしも願ったり叶ったりよ。…それにさ、感謝してるんだ、那知と兄貴に」
……うん。
これはまだ龍綺しか知らない話。