空色の手紙は執着愛の証 ~溺愛は再会とともに~
私達が小声とはいえこんなに話しているのに目立っていないのは、そこかしこから上がるキャアキャアという黄色い声の方が目立っているからだ。


龍綺さんは全体的に賢太郎さんに似てるけど、賢太郎さんより少しソフトなイメージかな。
明るい髪色で、前髪を自然なセンター分けで左右に流しているさまは、キリッとしつつも爽やかなイケメンさん。

片や賢太郎さんはというと、旅館のフロントで初めて見た時と同じく、きれいな黒髪を軽めに後ろに流したオールバックで、濃色のスーツ姿がバッチリ似合ってて、ホントかっこいいの。

でも何と言うか…背の高い大人イケメンが2人も揃うと、花よりも圧があるね…


常磐社長と話し終えた賢太郎さんがこちらを向くと、それに気付いた進行役の総務部長が「静かに」と黄色い声の主たちを軽く諌め、場が静まったところで賢太郎さんが話し始めた。


「TOKIWAの皆さん、初めまして。この度、社長代理を仰せつかりました、十和田 賢太郎です」

笑顔を見せてもいないのに、キャー!とまたアイドルコンサート並の黄色い声が上がった。

しかし次の瞬間、賢太郎さんの表情が一段と真剣なものに変わった。
…それは、私の位置からでもわかるほど。


「最初に言っておく。私は代理とはいえ社長として任に就く以上、TOKIWAの経営の建て直しを図るため、本社のみならず支社、工場とも厳しく見ていくつもりだ。また、社員の評価基準の見直しも行うので、今後は人事も変わってくると思う。厳しい事を言うが、今のままではTOKIWAの未来はないものと肝に銘じ、皆もそれなりの覚悟を持って業務に当たってほしい。以上」


この週末に聞いていた賢太郎さんの低くも優しい声とは違う、凛とした表情と声色で、緩んでいたオフィスの空気が一気にキュッと引き締まったのがわかった。

だから、賢太郎さんが話し終えても、もう黄色い声は聞こえてこなかった。


…これがホールディングスの人なんだ…

さすが経営戦略専門の人の本気度は違う。
私も社員の一人としてできることを頑張らなきゃね。

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