空色の手紙は執着愛の証 ~溺愛は再会とともに~

あれはハタチの夏のこと──


アメリカの大学は5月末から休みに入り、俺は7月の終わり頃に一時帰国した。

と言っても、向かったのは東京の親父のとこではなく、地元である北陸。


高校の仲間と連絡は取り合っているが、彼らと遊ぶよりも今は一人になりたかったんだ。

だから地元に帰省したんだけど、コンビニに入ったら中学の同級生がバイトしてて、俺が帰省してることがバレた。

すると、すぐに同級生の男女数人が家に来たんだ。
…まぁ地元の同級生は俺の連絡先を知らないから、会いたきゃ家に来るしかないんだけど。

でもその時は本当に誰ともまともに関わりたくなくて、誘いは全部断った。


とにかく1人で過ごしたいと思った俺は、叔母の良美さんに相談して、良美さんが女将をしている旅館に泊まらせてもらうことにした。

それが『華屋(はなや)旅館』の離れの部屋だった。
普通、離れの部屋ってのは人気があるものなんだが、当時のそこはやや古いせいか予約も少なく、日々ガラ空きで。
だから数部屋ある内の1部屋を身内が長く滞在しても特に支障はなかったそうだ。


ちなみに、この翌年『華屋旅館』は隣の広い敷地に建物を新築し、名前も今の『華舞雪舞』に変えた。
でも、この〝離れの部屋〞はリニューアルして今も使われている。

…そう。那知が予約して、俺も一緒に泊まったあの部屋もその一つなんだ。

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