空色の手紙は執着愛の証 ~溺愛は再会とともに~

ロビーに戻り、海が見える席でコーヒーを頂きながら、凪いでいる穏やかな海を眺める。


……きれいだな……

緊張が最高潮だったさっきとは精神状態が違うせいか、同じ景色とは思えないほど色鮮やかに映る。



…結局、結婚のお許しはまだ頂けていない。

けど、コンペの案を取り入れてもらえたことは嬉しかったし、それはお父様達に私の仕事を見てもらえるチャンスでもある。

ん!がんばろ!



それにしても…
紅羽さんて本当に賢太郎さんが好きなんだね。
あんなに私に対して噛みついてくるんだもん。

て、そりゃそうか。
許嫁と言われてそのつもりで過ごしてきたのに断られて、しかもその相手が貧乏そうなパッとしない田舎娘じゃあね……気持ちはわからなくもない。



なんて考えていたところに、後ろから声をかけられた。

「那知さん、ちょっとよろしいかしら」


この声は……紅羽さん。

「…はい、何でしょうか」

少しだけ緊張しつつ振り返ってそう返すと、紅羽さんは私の隣に座り、少し声を潜めて話し掛けてきた。


「あなた、昔から賢太郎と知り合いなの?」

……?

「昔…って?」

「あら!じゃああなたじゃないのね。あぁ良かったわ!」
ほぅ、と胸を撫で下ろす紅羽さん。

……??


「ねぇ、あなたはいつ賢太郎と知り合ったの?」

「先月です。…賢太郎さんは以前から私の事を知っていた様ですけど」

「そう。なら…あなたは存じ上げない様だから教えて差し上げるわ」

「何でしょうか…」

「賢太郎はね、忘れられない女性がいるのよ。ご存知ないでしょう?」


あ…そう言えばそうだ…すっかり忘れてた。
霧ちゃんが言ってたよね、かなり前だけど…


「でも、もうその方のことは気にしてないんじゃ…」

「あら、ご存知だったのね。…でもそうかしら。あんなに執着していたのよ?そうそう簡単に忘れることなんてできるかしら」

「…執着?」

「何も知らなくて後で心を痛める事になるのもお可哀想ですから、あなたにはお話ししておきますわね」

何だろう…


覚悟が要りそうな話に、心を決めて「はい」と頷くと、紅羽さんは徐に話し始めた。

< 97 / 189 >

この作品をシェア

pagetop