空色の手紙は執着愛の証 ~溺愛は再会とともに~
ロビーに戻り、海が見える席でコーヒーを頂きながら、凪いでいる穏やかな海を眺める。
……きれいだな……
緊張が最高潮だったさっきとは精神状態が違うせいか、同じ景色とは思えないほど色鮮やかに映る。
…結局、結婚のお許しはまだ頂けていない。
けど、コンペの案を取り入れてもらえたことは嬉しかったし、それはお父様達に私の仕事を見てもらえるチャンスでもある。
ん!がんばろ!
それにしても…
紅羽さんて本当に賢太郎さんが好きなんだね。
あんなに私に対して噛みついてくるんだもん。
て、そりゃそうか。
許嫁と言われてそのつもりで過ごしてきたのに断られて、しかもその相手が貧乏そうなパッとしない田舎娘じゃあね……気持ちはわからなくもない。
なんて考えていたところに、後ろから声をかけられた。
「那知さん、ちょっとよろしいかしら」
この声は……紅羽さん。
「…はい、何でしょうか」
少しだけ緊張しつつ振り返ってそう返すと、紅羽さんは私の隣に座り、少し声を潜めて話し掛けてきた。
「あなた、昔から賢太郎と知り合いなの?」
……?
「昔…って?」
「あら!じゃああなたじゃないのね。あぁ良かったわ!」
ほぅ、と胸を撫で下ろす紅羽さん。
……??
「ねぇ、あなたはいつ賢太郎と知り合ったの?」
「先月です。…賢太郎さんは以前から私の事を知っていた様ですけど」
「そう。なら…あなたは存じ上げない様だから教えて差し上げるわ」
「何でしょうか…」
「賢太郎はね、忘れられない女性がいるのよ。ご存知ないでしょう?」
あ…そう言えばそうだ…すっかり忘れてた。
霧ちゃんが言ってたよね、かなり前だけど…
「でも、もうその方のことは気にしてないんじゃ…」
「あら、ご存知だったのね。…でもそうかしら。あんなに執着していたのよ?そうそう簡単に忘れることなんてできるかしら」
「…執着?」
「何も知らなくて後で心を痛める事になるのもお可哀想ですから、あなたにはお話ししておきますわね」
何だろう…
覚悟が要りそうな話に、心を決めて「はい」と頷くと、紅羽さんは徐に話し始めた。