追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる

 色々考える私を、ジョーはじろじろ見る。そんなに見られると恥ずかしい錯覚に陥る。やがて、ジョーはその濃碧の瞳で私を見つめたまま、静かに聞いた。

「君、名前は?どこへ行くつもりだ?
……この辺りは、獣や山賊が出るから危険だ」

 山賊!?オオカミには会ったが、山賊には会わなかった。不幸中の幸いだろう。だけど、そんなことを聞くとさらに恐怖が押し寄せてくる。昨夜はジョーがいてくれたから良かったものの、私一人だったら確実に死んでいた。

 それに、行く宛もないことに気付く。
 私はふらふらっと放浪生活をしていたが、昨夜の恐怖を思い出し、どこか落ち着いたところで生活したいと思ってしまった。だが、王都に戻れるはずもないし、どこへ行こう。
 それに素性を明かしたら……こんな曰く付きの女、連れて行きたくないと思うだろう。
 私は考えた末、ジョーに告げた。

「私は薬師をしていたアン。あるトラブルに巻き込まれて、治療院を出ないといけなくなって。
 だから……どこか落ち着いたところで生活したいと思うの」

 ジョーはまた、じろじろと私を見る。その澄んだ瞳から逃げられなくなってしまう。内面を見透かされるようで、ジョーの前ではどんな嘘も通じないと思ってしまう。

「アン……か」

 ジョーは静かに呟いた。

「アンは俺の命の恩人だから、望むところに連れて行こう。
 俺は今から故郷のオストワル辺境伯領に向かおうとしている。ここなら落ち着いて生活出来るだろう」

 なんという幸運だ。ジョーが故郷で口利きさえしてくれれば、私はどこか暮らせるところが見つかるかもしれない。もちろん見返りは求めていなかったが、ジョーを助けて良かったと心から思う。

「命の恩人だなんて、とんでもない。
 私は薬師として当然のことをしただけです」

 かろうじてそう答えた。




 こうして私は、おそらく冒険家のジョーとオストワル辺境伯領を目指すことになった。

 王宮で仕えていた私には、オストワル辺境伯領について詳しいことは分からない。名前は聞いたことがあった。国境だけあって、度々戦が起こるということも。
 ただ、昔は危険な地帯だったが、現在は凄腕の騎士団が領地を守っているため、以前ほど危険ではないと噂されている。国境のため、オストワル辺境伯領の騎士団は、王宮の騎士団にも匹敵するほどの強さだという。

 その騎士団の強さとジョーの強さは関係ないかもしれないが……ジョーは本当に強かったのだ。

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