追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる
彼は結婚するつもりでいるようです



 それから十日あまり経った。

 広大な領地を持つ、オストワル辺境伯領の小さな治療院は相変わらず忙しい。だが、徹底した感染対策と治療により、感染症は次第に落ち着いていった。街の人々は元気に道を行き交い、患者も減ってきた。むしろ今は畑仕事で怪我をしたとか、変なものを食べてお腹を壊したとか、そんな病人が多い。
 そして嬉しいことに、この街の人々も私の存在をすっかり受け入れてくれて、毎日楽しい日々を送っている。

 ソフィアさんも、新入りの私の生意気な意見を、うんうんと聞き入れてくれた。それでこの街の医療のレベルは格段と上がったし、薬草園もますます拡大している。
 今や薬草園は人々の注目の的になっていて、時々近所の人が興味深そうに見にくるのだ。……というのも、最強と言われる騎士団長のジョーが、朝早くから水撒きをしているから。私がしなくていいというのに、勝手に来て水撒きをしてしまうから。



「アンちゃん」

 朝一番にやってきたのは、私はこの地ではじめに診た年老いた男性だった。当時歩けなかったのが信じられないくらい、今は元気に動き回っている。

「わしは今年、街で開かれるマラソン大会に出ることにしたんじゃ」

「へぇー!マラソンだなんて、すごいですね!」

 その言葉に感心しきりの私に、彼は嬉しそうに告げる。

「わしが走れるようになったのも、アンちゃんのおかげじゃ。アンちゃん、本当にありがとう!」

「いえいえ。私こそ、元気なお姿が見られて何よりです」

 男性は話すだけ話して、私が作った足が速く回る薬を買って出て行った。こうやって元気になった患者と話すのも楽しいし、何より慕ってくれているのが嬉しい。
 王宮では人々の治療をしてはい終わりだったが、ここでは治った人々が無駄話をしに度々訪れてくれる。そんな関係性がなんだか嬉しかった。

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