子犬系男子は待てを知らない


早く乾かそ。

あたしはふぅ、と軽く息をついてから、鏡の前できゅっと口角を上げた。


そして、髪を乾かし始めてすぐ。


……あれ?

ドライヤーの音がうるさく鳴り響く中、鏡越しに左の腕にできたアザを発見したあたしは、自然と手を止めた。


ああ、そっか。あの時の。

思いっきり階段から転げ落ちたんだもんな──。


「……っ」


続きの映像が頭に流れた瞬間、ぶわっと全身が熱くなった。


あの時はそれどころじゃなくて意識してなかったけど、あたし……!

雪平くんに抱き止められたんだよね。


今更すごいことだったんだと理解してうなだれる。


……雪平くんの身体、あたしなんかと全然違うかった。

大きくて、なんていうか……。


あーヤメヤメ!

このままじゃドツボにハマりそうだ。




「落ち着けあたし」


ドキドキには騙されない。

これはきっと、一種の吊り橋効果よ。


言い聞かせて、ドライヤーの風量をもう一段階引き上げた。

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