毒で苦い恋に、甘いフリをした。
「まーたイマジナリーショックだ」

「傷ついてないし、これはイマジナリーじゃないから。現実だから」

「傷ついてんじゃん」

「傷ついてないし嫉妬もしてない」

「やっぱゆめの恋は恋なんかじゃない。俺は認めない」

「は…」

「恋はもっと楽しくてうれしくて、そりゃ時々は苦しかったとしてもやっぱりドキドキしてしょーがなきゃだめなんだ」

「どしたの急に…」

「ゆめ」

「なっ…なに…?」

「俺がさ、ゆめにほんとの初恋を教えてあげるからね?」

「またそれ?」

「ん。だからゆっくり俺のこと男として見て?そんでいつか俺に恋してね」

ニッて笑うゆうれいの八重歯ばっかりが気になっていたけれど、上に引っ張られた頬の下のほうに小さくできるえくぼに気がついた。

そっと、触れてしまった。

ゆうれいの下まぶたがぴくって動いた。

触れた私の指先をゆうれいの手のひらに握られる。

身長は私とおんなじくらいなのに、
手のひらはだんぜん大きくて、長い指。

「まだダメ」

「だめって?」

「期待させないで」

「別にこんなこと…しょっちゅうじゃんか」

「ダメ。もっと俺にドキドキして?触れるのも躊躇しちゃうくらい。ちゃんと意識して?」

「なんでそんなっ…恥ずかしいことばっか言うの!」

「わざとに決まってんじゃん。意識して欲しいからだよ。今までずっと待ってたけど、もう待ち疲れたし、我慢するのもやめる。俺が男だってこと、ゆめに分からせるから」

そんなことを言っておいて、なんでもないことみたいに笑いながら自分と私の鞄を取って、「帰ろ!」って笑いかけてくる。

小悪魔男子だ…。
こんなゆうれい、知らないんですけど!?

反応に困っている私を楽しそうに、いたずらっ子みたいな目で見てくるゆうれい。

望まれていることとは正反対に、
私はゆうれいの扱い方に頭を抱えてしまった…。
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