毒で苦い恋に、甘いフリをした。
「最後だからだよ…」

「最後?」

「もう最後にするから…かっちゃんのこと。だから最後の思い出。それくらい、いいでしょ?」

「結芽…」

「俺が居るからだいじょーぶだよ」

教室からずっと私達の様子を窺っていたゆうれいが出てきて、ニカの後ろから言った。

振り返ったニカがゆうれいの右肩の下らへんをこぶしでトン、ってした。

「結芽が泣いたらどーすんの」

ニカのこぶしを手のひらで掴んで、もう片方の手でぽんぽんってしながら、ゆうれいが言った。

「結芽が風によそ見しないでこっちだけ見ててくれたらいーんだけど。そうはいかなそうだからさ。泣いたら泣いたでよしよししてあげるからだいじょーぶだよ」

ニカが腑に落ちないって顔をしたまま、
目を細めてゆうれいを見た。

「どんな関係なのよ…」

「ご想像にお任せしまーす」

ニッて笑って、ゆうれいは教室に戻っていった。

元々すごく人気があったかっちゃんのことだ。
かっちゃんとこころちゃんが付き合い始めたことはとっくに学年のほとんどの人が知っていて、

だから余計に“かっちゃん派”だった女子達がゆうれいに寝返った。

ゆうれいが動くたびに視線を感じたし、
自分の席に座っているだけで囲まれている。

言ってしまえばゆうれいは選び放題なのに、
なんでわざわざ私なんだろう。

「ねぇ、怜ってさ、結芽にあんな感じだった?」

「へ…?」

「なーんか甘すぎない?」

「そんなことないよ。元々かっちゃんもゆうれいも過保護じゃん?」

「そうかなぁ…」

ニカにはバレちゃダメ。
私とゆうれいのことは私の中で終わらせるって決めたんだから。

せめてちゃんと、かっちゃんへの恋にさよならできるまでは…。
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