月とスッポン  奈良へ行く

目の前に置かれた朝食を見て、つい「おぉ」と歓喜の声が漏れる。

運んできてくれたお姉さんに「写真を撮ってもいいですか?」と一声かけてから写真に収める。

「それほど感動する朝食ですか?」

大河が不思議そうな顔をしている。

「こちら奈良県産ヒノヒカリとなっております」

とお姉さんの説明を聞いてお礼を言う。

「いただきます」

手を合わせて一口。

「うー」と唸っていれば、まだ不思議そうな顔でこちらを見ている。

「美味しいですよ。さっさと食べて下さい」

そう促してようやく大河は、手をそっと合わせて、食べ始めた。

食べる姿を見れば、その人の育ち方や人柄がわかるけれど、この人程食べる姿が綺麗だと思った人は初めてだ。

外で食べる時、気を付けて食べるようにはしているが、改めて一緒に食べる自分が恥ずかしくなる。

姿勢を正し、箸の持ち方を確認し、茶碗の持ち方を気を付けて食べ始める。

うん。もう大河とは食べない。
今回だけだ。

「ご馳走様でした」

こんなに疲れた朝食は、いつぐらいぶりだろうか?

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