魔術師団長に、娶られました。

ええい、埒が明かない

「状況をお伝えします。二人の間に壁ができました!」

 アーロン、シェーラ両名の動向を追いかけていたユリウスが、声を張り上げて報告をした。

「壁……!?」

 再び、空気がざわりと揺れる。
 今にも「なんですって」と言い出しそうなヴェロニカの横を、白髪の少年騎士エリクが走り抜けた。

「ユリウスくん、僕も偵察任務に入ります。報告は僕に任せて」

 窓際に立つローブ姿のユリウスと肩を並べ、身を乗り出して眼下に視線をすべらせる。
 銀髪に透き通るようなすみれ色の瞳のユリウスは、「あっ、あっ」と慌てた声を上げた。

「いまお店に入っちゃって、テラス席なんですが角度的に直接は見えないんです。水の精霊(ウンディネ)の力を借りて、噴水の水に反射させて見ているところで」

 二人がいま座っている席を、こうして水から水に媒介して……と律儀に説明を始めるユリウス。
 エリクは窓枠から体を起こすと、正面からユリウスと向き合い、真面目そのものの顔で頷いた。

「わかった。それなら、見たままを僕に教えてください。会話は聞こえていますか?」
「ごめんなさい。風の精霊(シルフ)の力を借りられれば探れたと思うんですけど、僕の力ではそこまでできなくて」
「了解。見えたものを教えてくれるだけで十分ありがたいです。僕がうまく翻訳しますので、お任せください。姉様は思い込みが激しいので、妄想が先走らないように全方向の可能性を潰して塞いで、間違いようのない言葉で正確に伝えるのが大切なんです」
「はい!」

 弟ならではの助言に、ユリウスは目を輝かせて返事をした。
 そして、再び偵察任務に戻り、実況を始める。

「すごい壁なんです。あれでは会話もままならないと思います。溝の方がまだマシだと思うんですよ。二人の間に溝」
「壁の材質は?」
「パンケーキですね」「了解」

 ユリウスから問題なく情報を聞き取ったエリクは、後ろに控えた面々を振り返って告げた。

「仲良くパンケーキを召し上がっているようです」
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