魔術師団長に、娶られました。
「簡単ではないよ。両方を望むということは、二つの道を極めるということ。ひとの倍、努力と苦労をするということだ。君にその覚悟はある?」
問いかけられて、シェーラは息を止めて少年を見つめる。紫水晶の瞳は、きらきらと愉快そうに輝いていた。
その目を見ていたら、漠然と抱えていた不安は恐れるに足らないもののように思えてきた。大人になるのは、そんなに嫌なことじゃないのかもしれない。
シェーラは前のめりになり、勢い込んで答えた。
「どちらか一方を諦めて、捨ててしまうよりもずっと良いわ! ありがとう、あなたのおかげで目の前が晴れたみたい! 目標ができるってすごく清々しい!」
少年の手を取り、興奮のままぶんぶん、と振り回す。「わ。おっと」と言いながら振り回された少年は、シェーラをしげしげと見つめて、蕩けるように微笑んだ。
「僕にも目標……というか、生きる目的ができたように思う。君に会えて良かった。君の選んだ生き方が、君を幸せにしますように。どちらも実現できるよう、見守っているよ」
品良く優雅に笑った少年の笑顔が、まぶしかった。
それから実に二十年経過した今となっては、もうぼんやりとしか思い出せない。
しかし、シェーラがその後周囲の反対と戦い続け、騎士団最初の女性副団長まで上り詰めるきっかけになったのは、間違いなくその日の少年との出会いであった。
名前すら、聞かなかった。