魔術師団長に、娶られました。

手紙と招かれざる訪問者

「エリクです。騎士団長ではなく魔術師団長から、シェーラ副団長へ手紙を預かってきています。ドアを開けて頂く必要はありません。下から投げ込みますので、ご確認ください」

 エリクという白髪の少年、こと任務の遂行に関しては、もはや騎士団屈指の鬼と言って良い。
 用件を聞いたシェーラが「あ」「う」とまともな返事すらできないでいる間に、本当にドアの下の隙間から手紙を押し込んできた。
 手際よく用事を済ませた後は「では」と言って、速やかにドアの前から立ち去ってしまう。

 すでに心臓が痛いほど鳴る中、シェーラはドアまで歩み寄り、封筒を拾い上げる。
 淡い水色。
 見合い前に受け取った手紙と同じで、エリクの言う通り差出人が同一であると知れた。
 さらには、開こうとした瞬間まさかの可能性に思い至って、ぼぼぼ、と湯気が出そうなほど顔を赤らめる。

(ま、まさか、この手紙の色、私の瞳の色じゃないよね……? うん。恋人同士が推しカラーを身につけるのはメジャーな意思表示だけど、小物にまで行き渡らせるだなんて、偶然だよね? 考え過ぎ、うんうん)

 自分が彼の色である紫を取り入れたいだなんて邪な妄想に耽っていたから、関係ないものまでそう見えてしまうのだ、と結論づける。
 少なくとも、見合い前に封書を受け取ったときには、一切色については考えなかったのだ。
 今回も無心で、と自分に言い聞かせて封蝋に指で触れる。
 魔法でもかかっていたのか、蝋は指先で簡単に溶け崩れて封が開いた。
 カタカタカタ、と震える手で、たたまれた便箋を取り出し、開く。


“昨日はどうもありがとうございました。
 今日は、思いがけないところでお会いしまして、満足な挨拶もできないですみません。
 これから会えますか?”


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