白き妃は隣国の竜帝に奪われ王子とともに溺愛される

皇帝陛下からの溺愛

 私は、ドラゴニア帝国につくと、豪奢な一室に置かれることになった。
 けれど、前の宮の時と同じで寂しいかというとそうでもない。
「アデリナ〜!」
 そう叫んではしょっちゅうドラコルトが遊びにやってくるからだ。

 ◆

 そうして一年の時が経った。
 私は、ドラゴニアの王宮の一室で快適に暮らしている。

「アデリナ〜!」
 今日もドラコルトがやってきたようだ。
「ドラコルド殿下は、本当にアデリナさまがお好きでしょうがないのですね」
 にっこりと笑って隣で刺繍をしながら見守っているのは、ワニの頭を持つ侍女の、リデルである。

 そう。驚いたことに、ドラコルトは王子、そして私を攫った彼の父はドラゴニア帝国の皇帝その人本人であったのだった。
 私は、その彼に、彼の支配する王宮の豪奢な一室を与えられたのだ。

「あ、待ってリデル、そこより先に進まないでほしいわ。私、まだそこまで行っていないのよ」
 私は、嫁入りに必要な教育を実家で受けていなかった。やっていたのは侍女のような使用人としての仕事ばかり。刺繍も覚えたい技術の一つだった。

「大丈夫ですよ、アデリナさま。あとでアデリナさまのものを見ながら教えて差し上げますから。まずは殿下のお相手をして差し上げてください」
 そういわれてみてドラコルトを見ると、じっと手に糸を持ったドラコルトが待ちきれないと言った様子で待っていた。
 侍女も私に優しかった。

 私を待つドラコルト、そして優しい侍女。私は幸せだった。

 話は戻って、ドラコルトがやってきた用事だ。
「『あやとり』なる遊びを覚えたのだ。アデリナ、知っているか?」
 ドラコルトも、少しは成長し、口調がはっきりしてきた。
「知っていますけれども……それは人間の子供の遊び。殿下、もしかしなくとも、また人間の里に抜け出していっていましたね?」
 むに、と人型のときの柔らかいほっぺたを軽くつねった。
 ドラゴニア帝国の人々は、人型をとれるものは、それが誉高いようで、普段の生活の時には人型を取るものが多かった。

 私はというと、ドラゴニア王国に移ると、以前の乾燥したバント王国とは違い、適度な湿度に恵まれた大気のせいで、艶のある、やや緩やかな波打つ髪に変わった。もちろん、そう仕上げてくれたのは、こちらでの侍女としてつけられたリデルの念入りな手当てのおかげである。

 私の赤茶色の髪は我が国の大地のよう、緑の瞳は豊穣を表す女神のよう、として褒め称えられた。以前が以前なので、びっくりである。しかも、『人間だから』といって差別したりしない。
 この国が、人間に差別される獣人たちをまとめ上げて作られた国だからだろうか。逆に、人間という種族の中で冷遇されてきた私には、親近感を感じるのか、私の境遇を知るものたちは優しかった。

 話が逸れてしまった。問題はやってきたドラコルトである。
「ねえ、あやとりで遊ぼう。他に誰もできないんだよぅ」
 そりゃあそうである。人間の子供の遊びなのだから。

 それにしても危なっかしい。いくら人型をとったとしても、小さな黒いツノと、小さな羽は隠せない。これは、彼の父である皇帝陛下に──。

 叱っていただかないと、と思っていたら、床音を立ててその人がやってきた。
「ドラコルト。また、アデリナの元に入り浸っていたのだな」
「だって父さま。アデリナしかわからない遊びを一緒にしてもらいたかったんだ」
 そう口を尖らせて呟けば、彼の父、皇帝陛下はドラコルトの頭を優しく撫でる。
「お前は本当にアデリナになついているのだな」
「うん! 母さまになってほしい!」
 と、その言葉には、ぎょっとして皇帝陛下と私とで目を合わせてしまう。そして、私は恥じらいでそそくさと顔を下げて、熱くなる頬を隠すように押さえるのだ。
「なあ、ドラコルト。私は忙しい執務の合間を縫ってやっとアデリナのもとへやってきた。少し時間を譲ってはもらえないかな? そなたのその、母さまになって欲しいという願いは、私から頼み込んでやろう」
「本当!?」
 そう優しく諭した。
 ──待ってください、母様になるなんて、それって、陛下の奥方になるってことじゃ……!
 そんな切実な私の想いとは裏腹に、陛下は当たり障りのない事柄に話題を移す。
「ああ、そうだ。お前とアデリナには、帝都に新しく持ち込まれたという新しい菓子を持ってきたぞ?」
「お菓子!?  ……でも、さっき言っていたとおり、父さまは忙しいんだよね?」
「そうだな」
「……じゃあ、今は譲ってあげる。あ、アデリナ!」
 ドラコルトの目線が皇帝陛下から私に移った。
「父さまとの時間が終わったら、次はボクだから! 呼んでよね!」
 そういうと、リデルに菓子の半分を持たせて部屋をあとにするのだ。

 なんだか、私はこの親子にこういうふうに毎日引っ張りだこなのである。
 そうして、掛けて去って行くドラコルトを見送った。リデルも、そっと部屋を辞していく。
 私たちは二人きりになった。

「やっと二人の時間が取れた」
 そう言って、向かい合って座り、私の細かく波打つ赤茶の髪を指に絡めてから、そのまま髪に口づけする。その仕草だけでも、十分優雅で男らしくて色っぽかった。
 そんな愛撫を受ける私の髪は、リデルのおかげで潤いを取り戻し、美しい艶を放っている。そして、私は耳朶まで赤くなっているのだろう。耳朶が、頬が、熱を帯びているのを感じていた。

「相変わらず初心で愛らしい。……何もかもが初めてなのだな。男に、こんな他愛もないことをされるもの初めてなのか?」
「ならば嬉しいものだな」と言いながら髪の毛から手を離し、今度は私の頤に指を添える。男らしく節くれ立った手指が目に入り、そしてそれに触れられていることに、さらに熱を上げさせられる。

「これでは口づけもままなるまい」
 楽しそうに皇帝陛下は私の唇に陛下のそれを近づける。
 もう、我慢の限界で、私はぎゅっと目をつむる。そして、おそらく唇に触れられるであろう熱を期待する。
 ところが、触れたのは頬だった。
 私はその触れられた頬の感触を確かめるかのように手を触れた。
「次は、これだ」
 そう言って、小さなチョコレートを指で摘まんで私の唇の前に優しく押しつける。
「さあ、帝都でも最新の菓子だ。私が手ずから食べさせてやるのだ。……口を開けろ」
 そう命じられると、恥じらいにかっと身体が熱くなってしまう。けれど、陛下のご命令でもあるし、こんなやりとりは嫌いではなかった。だから、そっと小さく口を開いた。
 すると、コロリ、と口の中に甘い塊が放り込まれる。それは、すぐに口の中で形を崩して溶けてしまう。
「美味しい……」
 そういって、私が相好を崩すと、陛下もまんざらではなさそうな表情をする。
「菓子だけではない。着る物も、宝石も、全て私が贈るもので飾ろう」
 そう、この国に着てきた物は全て渡したけれど、それらは全て捨てられたとリデル経由にきいた。今私が身につけているものは、全てこの国に来てから与えられたドラゴニア帝国風のデザインのものばかりだった。
「アデリナ……そなたには、私しか見えないようにしてやろう。必ずな」
 そう、自身ありげに宣言した。
「そうだ、ドラコルトの母さまにするという約束も守らねばな」
 そういって、まだ身体の火照る私を置いて、部屋をあとにすると言い出した。「慌ただしくて済まない」と言いつつ、その部屋をあとにする足取りは速かった。きっと、ほんとうに執務の合間にやってきたのだろう。
 部屋を出て、彼が見えなくなるまで見送ったけれど、その時間は短いものだった。

 ──私、寂しく感じている?
 まだ熱を持つ体に困りながらも、あっという間に去っていった甘い時間に、名残惜しさを感じなくはなかったのである。
 ──甘い。
 口に残るチョコレートの甘さが、そのさみしさを余計に助長した。

 そうして、しんみりと陛下のお帰りを見送っていると、あやとりをしたいと言っていたドラコルトの言葉を思い出す。
「リデル! リデル!」
 すぐにリデルはやってきた。
「姫さま、なんでしょう?」
「私、ドラコルトとあやとりをする約束をしていたわ。遊んであげないと」
「ああ、そうでしたね」
 ドラコルトのことも忘れてはいない私の言葉に、瞳を細めて、「では」と告げ。
「ドラコルトさまをお呼びしてきましょう。きっとお喜びになります」
 そうして、その日はキャッキャと上機嫌に笑うドラコルトとともに、あやとりで遊んで過ごしたのだった。


 こんな日々が毎回なのであった。

 ドラコルトは毎日のように私と遊びたがった。母親のいないさみしさ故だろうか。それとも、あの宮で、毎日一日を一緒に過ごしていたのが当たり前になってしまったからなのだろうか。

 そして陛下は、毎日、ドレスだ宝石だ、花だと、私を飾るものを手に持ってきては、私の元を訪れる。それは、陛下の瞳の金の細かい刺繍を施されたドレスだったり、私の瞳の色の緑にあわせた色のドレスや、宝石だったりする。それに添える花も忘れない。
 前回のように甘いものも欠かさない。女性を落とすには、甘いものをと思っているのか、目あたらしい菓子の献上品を見止めると、ドラコルトを言い訳にしては菓子を持ってやってくるのだ。
 そして、ドラコルトとともにいる、恋愛に疎い私に優しく、優しく教育を施していく。
 強引なようで優しい陛下は、初心な私に無理強いすることなく──むしろ私の初心さを楽しんでいるように、頬や額、耳朶といった箇所に口づけすることを教えるばかりで、まだ、唇に口づけを受けたことはない。
 ──私が唇にされるのを望むのを待っているのだろうか。

 陛下にはお子さまがいる。ドラコルトである。けれど、ドラコルトの母であった唯一の妃を失って、今は独り身なのだそうである。
 ドラコルトも私にすっかりなついていて、「母さまになって」という毎日。
 そうして、本来政務に忙しいはずの陛下は、私を日々私を寵愛しに来るのが日課になっている。からかっている……寵愛している? からかっているにしては、お言葉もすることも過ぎる気がするし……。

「陛下……は、私の唇に……は、触れないのですか」
 ある日、日々の戯れに耐えかねて、私はそう尋ねる。
 種族の差がいけないのだろうか。彼の妃に……、後見のない人間の身でそれは恐れ多い、せめて寵姫にでもなれないものなのだろうか。それにはやはりふさわしくないのだろうかと頭の中でせめぎ合う。

 私は陛下に腰を抱かれる。たくましい腕に抱かれて、逃れることは出来ない。
「……アデリナ。私の唇に自分から口づけてみろ。そうしたら、私はもう何もかも止まらないから。そなたの全てを奪い尽くして、愛し抜いてやる。一夜で足りないと思え? ……それを私は我慢しているんだ。……そなたが望むなら……」
 その言葉に、ゾクッと背筋から嫌ではない感覚が走って行った。

 ──陛下に全てを奪い尽くされる。

 ああ、出来ることなら奪い尽くされてみたい。女として愛されてみたい。そう思う。
 けれど、そのきっかけ、自分から口づけをする勇気が出ない。恥じらいと勇気のなさが邪魔をした。

 それに、私が陛下と()()なったとき、種族の差が、身分の差がどう影響するのだろう。

「陛下、私は──……」
 それでも愛していますといいかけて、言葉を飲み込んだ。

「ん? どうした? アデリナ。私はそなたを愛しているぞ? もちろん、前の妃も愛していた。けれど、彼女はこの世にもういない。その切り分けはできるつもりだ。それに、ドラコルト自身もそなたになついている。それにそなたは我が子を守り抜いてくれた恩人だ。我が子と、私と、ともにそなたを愛しているのだよ」

 そういうと、陛下は今度は額に唇を触れさせた。

「それでもどうしてそんなに愛して下さるのですか? 私は人間で、種族も違います。それに、人として美しいわけでもなく、あなた方のように立派な羽を持つわけでもなく……」
 そう言いかけると、それを遮るように陛下が私の言葉を制して、私を賞賛する。
「そなたはそなたで十分美しいのだ。美しさとは、国やその人々によって評価は違う。そんなものだ。そして、私にとっては、その赤茶の髪は我が国の大地を象徴するかのようだ。そして、その深い緑の瞳は、我が国の深い森を現わすかのよう。そなたが嫌うそなたの容姿は、私には何ものにも替えがたい美しさなのだよ」
 そうして、私の瞼に口づけを落とした。

「さて、今日はここまでにしようか」
 そういって、陛下が私を捉えていた腰から手を離す。
 私の部屋の前に、侍従が控えていたのだ。
「残念だが、ここまでのようだ。……ドラコルトの相手をしてやってくれると嬉しい」
 そう言って、執務に戻っていってらっしゃった。

 私は、ともに廊下に出て、陛下の背中が見えなくなるまで見送りながら、胸の動悸を抑えるのだった。

 それが済むと、どこから把握していたのだろう、リデルが私の脇に控えていた。
「愛されていらっしゃいますね」
 穏やかな声でそう伝えてくれる。
「愛していたら、すぐに奪うものじゃないのかしら? ねえ、リデル」
「愛しているからこそ、相手の心を大切にするのですよ」
「そんな愛があるの?」
 そう尋ねると、リデルが少し笑った気がした。

「姫さまは、愛について、少しお知りになることが足らなかったようですね。……失礼します」
 そう言って、リデルが私の背に回って、腕を回して抱きしめてくれる。
「これも愛です。……私も侍女の身ですが、姫さまを愛していますよ。大切な方だと思っております。そして、殿下──ドラコルトさまも、同じように姫さまを大切に思っていらっしゃるでしょう」
 そう言われて、私は、心が温かくなるのを感じながら、鱗に覆われ、硬質な爪の生えた手に自分の手を重ねた。

 ──私は愛されていいのかしら。

 生まれと育ち、そして、結婚を経て、自己評価は最底辺に落ちていた。しかし、ここの人たちは優しい。みなで私を愛そうとしてくれていた。
 それが私の胸を喜びで震わせるのだった。

 そしてようやく、ドラコルトが一緒に遊ぶんだ! といっていたのを思い出す。
「あ、そろそろドラコルトを呼び戻さないとすねるのじゃないかしら?」
「じゃあ、お茶と、殿下がお好みのお菓子をご用意しましょうね」
 リデルはなんでも把握していた。陛下のことも、ドラコルトのことも。そして、私のことも知ろうとしてくれる。私にあてがわれたことなどないような、とても優秀な侍女だった。

 そうしてあやとりで遊び倒すと、夕方を過ぎて、ドラコルトは私の部屋のベッドでうとうとしはじめてしまった。私はベッドの端に腰掛け、とんとんと背中を優しく叩いて彼を寝付かせている。

「このまま、ご一緒にベッドでお眠りになりますか?」
 どうしようかとリデルがドラコルトを起こさないよう、私にそっと尋ねてきた。

「そうね、ドラコルトが本格的に寝てしまったら、誰か男性を呼んで、部屋に戻してもらった方がよいのかしら──……」
 そう言いかけていると、執務を終えたらしい陛下が再びやってきた。リデルはそっと部屋をあとにする。

「おや、眠ってしまったのか。よほど楽しかったのだろう。みなに菓子をと思って盛ってきたのだが……無駄になってしまったな」
 皇帝陛下は、手に持っていたマカロンなどの乾菓子が乗った皿を手にしていた。
「陛下、それは乾菓子。一日なら持ちましょう。明日、殿下に食べていただけばよいのではないでしょうか」
 そういうと、「それもそうだな」そういって、皇帝陛下はその菓子をリデルに渡す。リデルはそれを受け取ると、恭しそうに、それを仕舞いに行った。
 そんなとき。
「ん……アデリナ……」
 ドラコルトは眠っているというのに手を差し出して、共寝をねだった。二人であの静かな宮で過ごしていたときはそれが当たり前だったから、仕方がないのかもしれない。
「あの、ドラコルト殿下が共寝を所望されているようです。失礼しても……」
 恐縮しながら頭を下げて皇帝陛下に許しを請う。
「ああ、よい。これは甘えたがりでしようがないな」
 苦笑いしながら、頷いて許して下さった。
「では、失礼して……」
 私は皇帝陛下に背を向け、寝台に向かっていき、眠っているドラコルトの隣に横になる。キシ、と小さな音が部屋に響く。
 そして、私を求めて伸ばされていた手を繋ぐと、ドラコルトは満足そうに笑みを浮かべる。
「……アデリナ……大好き……」
 そんなドラコルトを見ると、私はいつも愛しさでいっぱいになってしまう。
「私も大好きですよ」
 手を繋いだ反対の手の指先で、まだ柔らかな子供の髪を、撫でるように梳いてやるのだった。
「その姿はまるでこの子の母親のようだ」
 それを見ていた皇帝陛下が、なにを思ったのか、不意にギシ、とベッドをきしませて、陛下は私の後ろ、背中側に横になる。
 ベッドには、向かい合って横になっているドラコルトが一番奥、次に向かい合って私。その私の背中に沿うように陛下が横に並んでいた。
 上半身から下半身まで、触れるからだが熱い。

 私は彼に背中を預ける形になってしまっているので、無抵抗である。
 いたずらに耳朶を食まれ、唇に指先で触れられ、やがては身体の線をなぞられる。
「女というものは柔らかいが、そなたは特に柔らかい。そして、甘い……」
 そういって、陛下は、素肌の場所はそのまま、衣を纏っている箇所はその上から、私の身体のあちこちを触れて回った。

「ぅ……んっ」
 陛下のいたずらによるくすぐったさもあって、私は思わず声が出そうになる。けれど、向かい合って眠っているドラコルトを起こしてしまわぬよう、必死で声を押し殺した。

「ああ、そうしている姿も愛らしい……ああ、全てが愛らしいよ、アデリナ。私の妻になっておくれ。私たちの間を隔てようとするものは私が全て排除すると誓おう。なあ、アデリナ。私のものになっておくれ……」
「んっ……ん……ッ」
 私は、コクコクと頷くのが精一杯であった。

 すると、思いついたように陛下が申し出る。
「そうだ、アデリナ。そなたをないがしろにした家も、国をも滅ぼすことだって出来る。……そうしてやったら満足か?」
 そう言って、私の耳朶に口づけをする。

「ん……。殿下、私は今が幸せなのです。ですから、そんな滅ぼすなど必要ありません。そして、陛下のお力は信じておりますが、戦となれば万が一のことだってあります。……私は陛下に危ないことはして欲しくありません」
 そう告げると、背後からため息が零れた。

「優しいのだな、アデリナは。……ますます欲しくなった」
 陛下が満足そうに私の髪に口づけた。

 そうして夜は更けていき、陛下の返事を受けて満足したのか陛下のいたずらも止み、陛下とドラコルトは私の部屋でその晩休んでいったことが、王宮中に広まったのである。

 もちろん、独り身になった皇帝陛下に、姫を差し出そうとしていた獣人の貴族は多く、そういった者たちから、皇帝陛下と私の婚姻を反対する声が上がった。しかし、ドラコルトがすっかり私になつき、他のものは母とは認めないと宣言し(ぐずっ)たことで、多くの貴族は諦めた。
 それでもと、皇帝陛下を魅了し、ドラコルトの次に子供をもうけてしまえば、その子を次の皇帝へと、そして、自分たちは外戚として権力を握れると、固執するものもまだ残っていた。
 それについては、ドラコルトをすぐに王太子として立太子させ、跡継ぎを明確にしてその貴族の野望を断ち切った。
 私はと言うと、侍女のリデルの縁戚であり、高位貴族である、とある爬虫類系貴族が、私の後ろ盾になってくれることになり、私の身分も落ち着いたのである。
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