愛し愛され、狂い焦がれる。

「…先生、また助けて貰いました」
「いや…今回は僕が遅くなったのが悪かった。ごめんな」

先生の車に乗り込み、小声で会話をする。

ショッピングモールでデートの予定だったのに。
仁と兼森さんがいることを気にして、私たちは車に戻ってきた。


「お前の元カレ…別れたのに、執着し過ぎだな。未練があるんじゃないか?」
「…未練なんて無いと思います。ただ…嫌がらせをしたいだけだと…」

…正直なところ、分からないけれど。
本当。何故、仁はあそこまで執着してくるのだろうか。

同じ部署で、同じ採用担当者だから。
という理由だけでは無い気がする。

だけど、それ以上に何があるのか。
それは私には分からない。



「先生、予定変更になってしまいすみません。…予想外でした」
「誰もそんなこと予想しないよ。大丈夫、謝るな…」

見つめ合い、触れるか触れないかのキスをした。


今日は黒いポロシャツに薄手のジャケットを羽織っている先生。
いつもとは少し違う雰囲気を醸し出している先生の姿に、何だか体が疼く感覚がする。



「…先生」
「どうした?」
「……」


先生の耳元に顔を寄せ、囁いてみた。


「…ホテル、行きませんか」
「……安永…」


一瞬だけ驚いた表情をした先生だったが、次第に笑顔が零れた。
そして、ギュッと力強く抱き締められる。


「……僕の愛、全てを受け止める覚悟はあるのか?」


いつもの笑顔の隙間に見える、ほんの少しの、雄の顔。
そんな表情にまた心臓が飛び跳ねて、思わず私は唇を噛みしめた。

「先生も、ですよ。私の愛…受け止めてくれますか?」

体温が上がっていく感覚がする。
自分の心臓の音も…思わず耳を塞ぎたくなるほど響いて煩い。

「安永の愛? 余裕。1つたりとも溢れさせず、全て受け止めてやるよ」
「…奇遇ですね。私も同じ、です」

どちらからともなくキスをして、先生の頭を撫で回す。

愛おしい。
今のこの感情を表すのにピッタリな言葉だ。




『この人に抱かれたい』

仁と付き合っていた頃に感じたことの無かった気持ち。
そんな思いが、私の中に芽生えるなんて…知らなかった。


「…じゃあ、行こうか」
「…はい」


別れ際、仁に言われた『エッチに積極的じゃない』という言葉。
多分、そう感じた仁は間違っていなかったのだと思う。


今だから分かる。

私、仁に抱かれたいって思ったこと…一度も無かった。

初めてだったから。
それが当たり前だと思っていたけれど。

違う…。
今は体が、心が…私の全てが…先生のことを求め、抱かれたいと願っている。


愛しくて、恋しくて、狂おしいほど好きで、思い焦がれる。

もう「好き」という言葉では、軽々しく感じるくらい。

先生のこと、愛している。





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